帝王院高等学校
★砂糖☆若月わかめ様より
 出合った時から貴方は俺の聖域だった。

 貴方に触れれば、俺は貴方を穢してしまう。






「総長?」


 突然やってきてソファに転がったと思ったら、聞こえてきた規則正しい寝息。飲み物を持ってこようと立ち上がった体を手持ち無沙汰に、一つ息を吐いて総長専用のタオルケットを取りに行く。

 柔らかく肌触りの良いそれを、総長はとても気にいってくれていた。涎塗れになるし食べかすやら何やらが付いて毎回洗濯が大変だが、勿論業者なんかに任せるわけも、下っ端に任せるはずも無い。総長の身の回りのことは全部自分がやると決めている。


 あの人が喜ぶなら。



 いつでも使えるように用意されているそれを広げ、起こさぬようにソっとその肢体にふわりと掛ける。
 僅かに起こった風が総長の髪を揺らした。

 顔に掛かってしまった髪を払おうと指を伸ばし、一瞬…躊躇った。
 起きている時とは違う。意識があるときの貴方ではない。


 触れて、良いのか。



 彷徨わせ…拳を、握る。
 せめて…そう思い、寝苦しそうに掛けていたサングラスにソっと手を添えて…起こさぬように、触れないように…外してやった。

 カチャリと小さな音を立てガラステーブルに置かれたサングラスを見つめ、視線を落とす。

 震える…指先。
 こんなことぐらいで。

 ギュっと強く拳を握り締め、腕を押さえ唇を噛む。


「っ……」



 出会ったときから、貴方は俺の憧れだった。
 貴方の全てが俺を支配する。



『イチ』

『イチ』


 名を呼ばれれば震えるほどの甘美。
 その指先で、触れてもらえるならば。
 その手に頭を撫でてもらえるならば。
 何を手放しても構わない。


 脳髄全てを支配する、貴方はきっと甘い砂糖の麻薬。



 手を伸ばせば届く。触れようとすればきっと貴方は拒まない。

 けれどできない。
 俺には出来ない。



「そー…ちょ…」


 意識の有る貴方ならば触れられる。
 貴方の反応を見ていられる。貴方の喜ぶ事が出来る。

 けれど、目を閉じた貴方に触れることは…まるで。


 まるで、侵略するようで。



 貴方の触れてはいけない部分に触れてしまわないだろうか。

 貴方を穢さないだろうか。



 ただ、清廉で、ただ、美しく、ただ、穢れの無い、貴方を。


 黒く染めないだろうか。
 血のように、赤い…己の、感情で。

 貴方を、穢してしまわないだろうか。


 貴方に触れても良いのだろうか。




 出会ったときから貴方は俺の聖域だった。
 何人も踏み込む事の出来ない、不可侵領域。


 何もかもを背負うのに、何もかもを柔らかく拒絶して、とても、深く…傷つく…繊細な人。



 傷つけたくない。
 嫌われたくない。

 貴方に。



 捨てられたくない。







 強く、強く…拳を握り締める。手の平に食い込む爪の痛みで、湧き上がる想いを押さえ込む。
 強く唇を噛み締めて眉間に深い皺を刻む。

 目の前でスヤスヤと静かな寝息をたてる、その、柔らかな髪に。肌に。唇に。



 貴方が俺を弱くする。




 貴方に触れてしまう自分が恐ろしい。
 貴方に触れたい自分が厭わしい。


 触れてしまう。
 触れてしまう。
 貴方に。


 穢してしまう。
 貴方を。


 俺の。
 聖域を。

 オカシテシマウ。





 貴方に。

 触れたい。



『イチ』
『イチ』

 目を覚まして。
 俺の名を呼んで。


 貴方に触れてしまったら。


 きっと。





「イチ…?」

「イチ…?」


 名前を呼んで。イイコイイコと頭を撫でて。
 貴方にだけ忠実な、犬でいさせて。


 俺を駄犬にさせないで。



「泣くな、泣くなイチ」


 闇の相貌が濡れた視界を覗き込む。大きな手が優しく、優しく…頭を撫でていく。その熱に。
 宥めるように前髪を梳くその動作に。


 焦がれてしまう。


「そー、ちょっ…スイマセン…」
「イチ」

「スイマセン」
「イチ」


「っ…触って…も…良いですか?」
「イチ」


 優しく頭を撫でて、俺の名を呼んで。狂おしいほどの湧き上がる激情を宥めて俺だけを見て。

 俺に触れて。
 俺だけに触れて。

 そうでなければ。
 そうでなければ。

 きっと。


 寂しくて、死んでしまう。



「そんなこと、聞くな」


 迎えるように広げられた手の中に飛び込んだ。
 夢中で、貴方にしがみつく。

 貴方の柔らかな頬に唇を、押し付けて。涙で、濡らす。
 肩に顔を埋めれば、貴方の匂いに包まれて。


 貴方は甘い麻薬のよう。
 言葉一つで、動作一つでこんなにも誰をも夢中にさせて。
 俺を、とろけさす。


「イチ…」


 甘い吐息。背に流れる髪を梳く指。


「総長…何処にも、行かないでください」


 祈るように、呟いた言葉に…返事は無かった。ただ優しく、背を叩くだけ。
 ただ小さく、笑うだけ。



 出合った時から貴方は俺の聖域だった。

 誰より強く、誰より優しく、誰より脆い。傷つきやすく、壊れやすい。


 貴方を縛る俺を許してください。
 貴方に背負わせる俺達を、許してください。
 今、貴方に触れる俺を、許してください。

 貴方はきっと怒らない。


 けれど触れられない俺を、どうか…見ないで。





 貴方に触れてしまったら。


 きっと。





 何処にも行けない。








ハァハァハァハァハァハァ。
こんにちは、貴方の藤都ですハァハァ。

うちの嵯峨崎がこんなに格好良い人だったなんて初めて知りました!ちゅーが!今の所エロ無し萌無しの帝王院に春がやってきたァ(´Д`*)

と言う訳で若月わかめハニー本当に有難うございました!アイラブ!

寧ろイチシュンこそメインカプではなかろうかとかとか(単純


←いやん(*)(#)ばかん→
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