帝王院高等学校
陛下と陛下がホストで陛下が俺様なり。

偉そうな自己紹介を済ませ満足げに鼻で笑った男は、然し優雅に飛んできた大きな扇子…ではなくハリセンで吹き飛んだ。


「ぅわっ、落ち…ぎゃっ!!!」
「…ってぇ、何しやがるコラァ!」

ずべっと零人の腕から転げ落ちた佑壱が顔面を強打し、ハリセンでしこたま打ち付けた後頭部を押さえながら振り返った零人の表情から血の気が引いていく。



「…何しやがる、だと?」
「そ、総長」

モスグリーンのジャケットを翻しながら壇上に上がる男の低い声に、黄色い悲鳴が響き渡る。
バタバタ倒れていく生徒達がラブコールを上げ、不良達はABSOLUTELYコールを叫び、何事かと唖然げな来賓を余所に教職員席からも熱烈ブラボーコールが上がった。


『続きまして、本年度特別進学クラス総主任に着任されました東雲村崎教諭より就任挨拶です』

きゃーっ、と言う黄色い悲鳴と共にスタンディングオベーション。

「きゃー紫の宮様ぁっ」
「抱いてぇっ」
「お慕いしておりますぅっ」

頬を赤らめる生徒、我が子の巣立ちを見る父の様な風体で拍手喝采する校長並びに号泣の教職員達に気圧された来賓席も、然し壇上の男がサングラスを外した途端黄色い悲鳴を上げ始めた。


『只今ご紹介に預かりました一年特別進学クラス担任、東雲村崎にございます。
  ご子息の入学、及び進級をめでたく迎えられました保護者の皆々様へお祝い申し上げ、本年度も格別のご期待を賜りますよう心よりお願い申し上げます』

来賓席から女性の並々ならない悲鳴が響き、ほぅっと言う感嘆の溜め息が落ちる。
しゅばっと逃げ出した佑壱にガッカリした様な表情を滲ませた零人が教職員席へ腰を落ち着かせ、殿様の様な傲慢さで取り出したハンディカムを覗き込んだ。



恐らく弟をパパラッチしているものと思われる。


「ふん、可愛いじゃねぇかポニーテール…」

低い呟きに隣の教師が怯んだ。


『話は変わるが、本年度は初めて我が帝王院学園高等部へ外部より新入生をお招きしています。
  在校生の皆さんは新たな仲間の入学を祝福すると同時に、互いに切磋琢磨し勉学に努めるよう。…先生の挨拶は以上だ。何はともあれ諸君、進級おめでとう』

口をぱっかり開けた太陽が村崎の変貌っぷりに硬直し、眼鏡を歓喜の涙で光らせた俊からマッハな拍手が起きる。叩く手が早過ぎて見えない為、健吾が目を丸くした。
黄色い悲鳴が一際高く響き、満足げに一つ頷いたホストと言えば舞妓さんのイラストが入ったモエな扇子を広げ、



『のび太君〜、こないなもんでどないやのー?』
「きゃーきゃーきゃーきゃーきゃーっ、ホストパーポー素敵ィイイイ!!!!!」
『おーきに!』

晴れやかな微笑を浮かべたホストが呆れ果てた太陽に気付かず退場したらしい。


「…うちの学校、大丈夫なのかなー…」

零人や村崎に比べれば全く印象に残らない他の教師達が手早く挨拶を済ませ、いよいよ式典は中腹に差し掛かった。
二葉の代理で進行役を務める生徒が壇上に上がり、生徒からABSOLUTELYコールが上がる。


「ふぇ?あの青い人も不良さん?」
「俊、知らない?二年の川南先輩だよー。双子で、あっちがお兄さんなんだ」
「つか、弟はうちの兵隊なんだけどなー?( ̄〜 ̄*)」

肩を抱いてきた健吾に怯んだオタクがずびっと鼻水を垂らし、うっかり袖口で拭い掛けた時、背後から伸びてきた何かに捕まった。
太陽があっと口を開き、腕から消えた俊を追い掛ける健吾の瞳が瞬く。
不良達がその長身を見上げ怯んだ様に後退り、浮遊する感覚に眼鏡の下で瞬きしたオタクが首を傾げた。



「カイちゃん?」
「…俊、席が違う」

耳元に擦り寄ってくる高い鼻先に振り返れば、ボロボロの黒縁4号とうねうねボサボサな黒髪で鼻まで顔を隠した神威の唇が見える。

「遠野、それ誰?(・ω・) 何で呼び捨てなの?(`∀´ )」

晴れやかな笑顔を浮かべ神威を見上げる健吾に眼鏡を光らせた俊がデジカメを光らせ、見つめあう神威と健吾に妄想が膨らんでいるらしい。


「ハァハァ、普段は人気者で明るいクラスメートの意外な一面…!実は不良でそれを見ちゃったカイちゃんは口封じに襲われるにょ!

『へぇ、まさか君に見られるとは思わなかったよ、カイ君…』
高野豆腐くん…』
『不味いよな?折角今まで作り上げてきたイメージ壊されんのはさ、皆が可哀想だろ…?』
『あっ』
『口止め、しても良いよな?』
『ゃ、』
『へぇ、まさか眼鏡の下がこんなに可愛いなんて…。ラッキー、かな』
『やめ、』
『やめないよ。…どうしよ、マジになっちゃったみたい』
『あ、』
『ねぇ、…俺のものになってよ』


  きゃーっ、マジかァアアア!!!」


オタクの絶叫に、邪魔する不良達を片っ端から薙ぎ倒した裕也が眉を寄せる。逃げ出した健吾を軽々捕まえ、太陽を一瞥し眼鏡二匹を睨め付けた。

「テメー、次は容赦しねぇって言った筈だぜ…」
「歩行に妨げは無い様だな、藤倉裕也」
「煩ぇ!」
「やめろユーヤ!俺が先にナシ付けてからだろ(;A-_-)ρ(^・д・)」

スラックスの片方を膝まで捲し上げた裕也の足首に包帯が巻かれてある。
じっと見つめた俊の肩がしょんぼり垂れ下がり、神威の腕に吊された様な格好の俊の腕を太陽が掴んだ。

「俊、やっと生徒会紹介だよ。あっちで錦織君が不穏な雰囲気醸し出してるから、戻ろっか」
「錦鯉君、怒ってるにょ?」

言外に裕也と健吾を傷付けた事を悔やんでいると教えてくる俊へ、太陽より早く口を開いたのはこの男だ。


「すいませんっした!」
「は?」
「ふにょ?」

何処からどう見てもジャパニーズ土下座でパイプ椅子の上に飛び乗ったオレンジ頭が太陽を見つめる。目を見開いた裕也がやめさせようと手を伸ばすが、俊を片腕で抱き変えた神威の腕に捕まってしまう。

「ごめん、マジ痛かったろ?つか唇、切れてんじゃん。本当申し訳ない!m(__)m」
「え、いや、だ、大丈夫っ、地元のヤンキーさんにカツアゲされそうになって殴られた時より全然マシだったしっ!」
「「カツアゲ…?」」
「ひぃっ」

俊と健吾が同時に低い声を発し、竦み上がる太陽を暫し眺めた裕也が神威の腕を振り解きながら深い息を吐いた。

「アンタ、苦労してんだな」
「いや〜、それほどでもあるかなー…。地味野郎ですしー、ちょっと前まで149cmで停滞してましたしねー…。弟の方が大分大きくなってるみたいだし、頭が良いから西園寺高校主席入学だし、…何か世界中が憎いってゆ〜か」
「それは、御愁傷様だぜ」
「弟?!」

しゅばっと神威の腕から飛び降りたオタクがしゅたっと着地を決め、好奇心満面の顔で太陽に張り付く。

「双子の弟が居るんだ、俺ー」
「似てます?!」
「いーや、全然似てないんじゃないかなー。たまに写真送って来てるみたいだけど、俺は見てないから知らなーい」
「ふにょ、何でだィ?弟ってばちょー可愛いものじゃろん?うっかり押し倒して成長を確かめたくなるものじゃないにょ?!」

零人ならば有り得なくもない。

「可愛くないよあんな奴、陰険で鬼畜でもう最っ悪。兄弟なんてさ、実際は他人より酷いもんだよー?」
「陰険で鬼畜?カナメみたいな双子君だねぇ(´Д`*)」
「ケンゴ、声がでか過ぎるぜ」

ガタリと向こうの方で立ち上がった要が生徒達に止められているが、哀れ優等生集団にド鬼畜不良優等生を止められる気がしない。
その隣、膝を抱えている赤い軍人ワンコが涙目でこちらを凝視しているではないか。

然し彼は今にも日本を沈没させそうな表情でつかつかやってきた二葉に首根っこを掴まれ、ズルズル引き摺られて行った。





そーちょー、へるぷみー





と言う幻覚は、聞こえなかった事にしよう。太陽と俊の心は一つになった。
何せ魔王が凄まじい笑みを浮かべていたのだ。すぐ隣に居た要が可愛いなんて思えるくらい満面の笑みで、自分よりガッシリした体格の佑壱をガシッと掴んだのだ。


正に恐怖。


然し要が怖い健吾と裕也は痙き攣った笑みを浮かべ、後退った。

「と、とにかく、俺は謝ったかんな!カナメに言い付けたりすんじゃねぇぞ(/_\;)」
「早く失せろ、今はノーカンにしてやるぜ。でも次は、」
「ごめんなさいにょ」

一般クラス席をこそこそ逃げ回る気らしい二人が、沈黙した。

「パチンしてごめんなさい、セクシーホクロ君。あんよ痛い痛いさせてごめんなさい、ピーマン君」
「誰がピーマンだおい」
「うひゃひゃひゃひゃひゃ(´∀`)」
「ふぇ、あにょ、えっと、」
「藤倉裕也。…ユーヤで良いぜ、アンタなら」
「ふぇ?」
「何だ、ユーヤも気に入ったみたいじゃん?(・ω・)」
「うっせ」

裕也の肩を抱きながら擽る様に笑った健吾が片手を上げる。

「またね、眼鏡君(∀) 暇ならA組に遊びに来なよ。次は簡単に負けたりしないからさ(´Д`*)」
「やめといた方が良いぜ、コイツ暴力快楽派だからな」
「誉めんな、照れるっしょ(*/ω\*)」

仲が良いのか悪いのか判らない二人が遠くに離れていき、俊と太陽が般若と化した要にビビりながらSクラス席に走っていく。
スピーカーが短くキィンとわななき、壇上で進行役の生徒が静粛を促した。



『高等部自治会挨拶は以上です。続きまして帝王院学園中央委員会執行部の皆様より、お祝いのお言葉を賜わります。
  生徒教職員、来賓一同、起立』

ズササっと全ての人間が席を立ち、漸くSクラス席に辿り着いた三人が中腰から背を正す。

「え?え?生徒会見てないにょ!」
「今から本物の生徒会が出てくるよー。自治会なんて名目だけだしさ」
「見えないにょ、見えないにょ、うぇ」

キョロキョロ辺りを窺う俊が再び浮き上がり、慣れた太陽が背伸びしながら壇上を覗き込んだ。

「始まったみたい。中央委員会は学園の生徒理事会みたいなもんだから、保護者にとっても神様なんだよー」
「ぷはーんにょーん」

煌びやかな人間ばかりが壇上に整列していく。特に前列へ並んだ四人は圧巻だ。
黒衣を羽織った青銅色の仮面を纏う会計、ワインレッドの衣を羽織った緋銅色の仮面を纏う書記、鮮やかな紅に黒の幾何学模様が描かれた衣を羽織った赤銅色の仮面を纏う副会長に、



腰に重そうな剣を装着した、黒一色の鎧を纏う白銀仮面の男。



「騎士様…騎士様ァアアア???!!!」
「落ち着いて俊、ただの会長だから。見た目皇帝だけど会長だからー」
「カイちゃんカイちゃんカイちゃんっ、あそこに王様がっ、俺様じゃなくて王様会長が居るにょーーーっ!!!」

はしゃぐ俊を見つめ緩く首を傾げる神威が、口元に微かな笑みを滲ませた。

「王は太古より横柄な人格者が多いと言う」
「ハァハァ、会長ォオオオ!!!きゃーきゃーきゃーっ、会長ォオオオオオ!!!!!」

陶酔の息さえ許されない雰囲気の中、とんでもない音量で騒ぎ発てる俊に全員の視線が注がれる。
太陽が青冷め、神威を不審げに眺めていた要が眉間に皺を寄せ、壇上の佑壱が痙き攣った顔で皇帝姿の男を盗み見た。



『下らん騒ぎを直ちにやめろ。蛮族如きが私の眼前で口を開く事は許さない』

マイク越しに落とされた囁く様な声音に世界は沈黙し、胸に手を当てたABSOLUTELY一同へ煌めくプラチナブロンドが大仰に頷けば、



「一同、整列!」
「我らが神、ルーク=フェインに敬礼!」
「号令!」
「唯一神の冥府揺るがす威光を須く知らしめんが為に!」

最後の言葉が大人数の声で繰り返された。皆がうっとりと陶酔めいた表情で神を見つめ、片手を上げた神の合図で着席する。
慣れた太陽でさえ初めて見る生の中央委員会挨拶に気圧され、落ち着きが無い。席が足りない為に神威の膝に収まっている俊が唇をぎゅっと引き締め壇上を見つめているのに気付き、要が立ち上がった。

太陽が慌てた様に隣を見上げるが、次々に席を立つ生徒が現れそれ所ではない。


ガタン、と凄まじい音を発てて開いた講堂の入り口に全ての視線が集まり、壇上の佑壱が声を発てて笑った。



「はぁい、相変わらず辛気臭い行事だねえ?わざわざ来てあげたのにさー、歓迎の言葉とかダンスとかないわけー?」
「はははははっ、最高だ隼人!後でキスしてやんぜ!」
「えー、お断りしますー。今すぐ死んでくださーい」

遅刻した事に全く悪怯れない隼人が上三つボタンを外した喉元を掻きながら、つかつか入場してくる。
健吾が腹を抱え、裕也が肩を竦め、要が冷たい目で見やり、全てのカルマが壇上から飛び降りた佑壱に拳を固めた。



「Open your eyes, we are traveler of the chaos and silver!(刮目しろ、我らは望朔月を泳ぐ者!)」

噛み付く様に吠えた隼人が満面の笑みを浮かべ壇上の神を睨め付け、

「We always pray for the moon.(オレらは常に月へ祈り、)」

静かに、然し確かな敵対心を隠さない裕也が良く通る声で続ければ、

「We always pray for the dark.(俺達は常に宵闇に抱かれ眠る)」

俊の横顔を見つめ柔らかな笑みを滲ませた要が呟いた。

「We are kings pet dog.(俺らは王の犬)」

右胸に親指を突き付けた健吾が勝ち誇った様に微笑み、



真っ直ぐ見つめてくる佑壱が仮面を剥ぎ取れば、





「Don't give us a noise,(俺らに命令してんじゃねぇ、)



  KARMA makes go down on our knees, ST only.(カルマが跪くのは、シーザーだけだ。)」



ぽたり、と。
神威のブレザーを濡らす水滴、一つ。

←いやん(*)(#)ばかん→
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