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溺れる魚を掬うのは
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 ペルルに従者をつける事が決まった。サフィールもシュエットも多忙で、ずっとペルルの側に居られないからだ。少し考えれば当然の事だった。サフィールは王子で次期国王。礼儀作法や外交、食事マナーに歴史に武術にダンスと学ぶ事が非常に多い。彼を守る立場にあるシュエットが離れる事は許されず、王宮を訪れた客人達の対応も任されているので何時も忙しそうに王宮内を移動していた。

 必然的にペルルはサフィールの部屋で待つ事になる。彼一人で王宮内を歩かせる訳にはいかないし、平民以下の身分であるペルルをよく思わない貴族も数多く存在する。それを避ける為には、やはりサフィールの部屋で待ってもらうしかないのだ。そこで思い付いたのがペルルにも従者をつける事だった。シュエットが安心して任せられる従者を選んでペルルにつければ多少自由になると思ったのだろう。コーラル達も加わってペルルの従者を選び、教育指導を一任した。

「従者にも階級があるの、忘れてたな」

「頭痛が痛い話ですね」

「頭が痛いでしょ? 意味が重複してるよ」

「知ってます。態と言ったんです」

「なんで?」

「それくらい面倒って事です」

「あぁ」

 涙が流れるのを必死に耐える姿を見るのは正直心臓に悪い。何も悪い事をしていないのに申し訳ない気持ちになってしまう。ボサボサの髪。肌けた衣服。破られた本。慌てていたからなのか、ペルルは裸足のまま庭園を走って転んでしまった。今日は雨が降っており、放置すれば風邪をひいてしまう。

「大丈夫、ではないですね。ペルル様」

「どうせプライドと身分だけはクソ高い肩書きだけの従者に虐められたんだろ」

「セシル様って時々毒舌になりますよね」

「貴族階級が大っ嫌いなだけだよ」

 ペルルを見付けたのは偶然だったが、早めに気付いて良かったとセシルは思った。いくら国王やサフィール達が国民に優しくても、貴族のほとんどは身分の低い者を平気で見下す奴らばかりだ。一体どんな選び方をしたのか知らないが、ペルルを虐めるような従者を選んだ奴に「お前の目は節穴か」と言いたい。貴族に階級があるように、従者にも階級が存在する。この王宮ではシュエットが従者のトップだ。その証拠に彼は紫陽花を模した銀のブローチを身に付けている。銀のブローチを与えられるのは王家直属の従者のみ。

 王家直属の従者になる方法は二種類ある。一つは従者となる教育を受け厳しい試験に合格する事。もう一つは王家の者が自ら従者を選ぶ事だ。シュエットは前者で、エルバは後者。嫌味や嫌がらせは受けるものの、エルバが無事なのは王家直属の従者である銀のブローチを身に付けているからだ。従者の中で最も位が高いのは銀のブローチを身に付けている者。次に銅。最も多いのは鉄。見習いや従者の卵は木材で作られたブローチを身に付ける事が義務付けられている。そして、不正防止の為に銀のブローチには一輪だけ金が使用され、鉄のブローチは青紫の塗料が塗られているのだ。

「ペルル様、少しだけ我慢してくださいね」

「あ、う」

 上着を脱いでペルルを包むと、エルバはそっと彼を抱き上げた。少し驚きはしたものの、ペルルは大人しくエルバの腕に抱かれていた。どうしましょう、僕の部屋に連れて行くしかないだろ。二人はそれが当然のように話を続ける。身分が低い事を馬鹿にされ虐げられてきたペルルにとって、二人の優しさはとても嬉しくて無意識にエルバに抱き付いていた。

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あきゅろす。
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