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溺れる魚を掬うのは
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 エール達が離宮に帰って来た時、広いリビングに見慣れない人物が居て彼らは警戒した。しかし、その場にはセシルとペルルとシェーヴルも居て、三人は慌ててルカンとフォスについて説明した。ルカンも丁寧に挨拶をした後、自分が何故此処に居るのか、フォスとの関係、キャラマールの目的や真夜中の闘技場についてまで詳しく話した。

「ロゼの命を狙った真犯人は、キャラマール・ヴィーニュで間違いないのか?」

「あぁ。奴の目的はセシルだ。欲しいものを手に入れる為なら手段は選ばない。セシルを手に入れるのに、ロゼが邪魔で仕方なかったんだろう」

「……嘘、ではなさそうですね」

「今此処で嘘を吐いてルカンに何の得があるの? 僕を油断させる為だって考えることもできるけど、そんな思惑があったらルカンはフォスには触れない。有翼族は穢れに弱いから。そのフォスに触れても大丈夫ってことは、ルカンの心が綺麗な証拠だよ」

「彼の言うことは、どうやら本当のようだな」

「真夜中の闘技場、ですか。まさか我が国でそのような非人道的なイベントが開かれていたとは……」

「僕も、エルバに聞いて初めて知った。相手は他国の王族や有名な高位貴族、大富豪、商人だって言っていた。真夜中の闘技場については、僕達が無計画に行動するよりも陛下に報告して判断してもらうのが賢明だって。可能なら、オリヴィエ国の王様にも協力してもらえたら確実に叩けるって、エルバが……」

「オルタンシア国とオリヴィエ国では人身売買を禁止していた筈ですが、何処にでも腐った人間は存在するんですね」

「エメロード様?」

 セシル達の話を静かに聞いていたエメロードは一瞬ロゼを見て、何かを決意したようにセシルを真っ直ぐ見る。その目には強い意志が宿っており、彼にも一国を担う王としての風格があるのだと実感する。

「真夜中の闘技場の件、僕から父上に話しておきましょう。僕はこう言った悪趣味な嘘は吐いたことがありませんから、きっと父上も信じてくれる筈です。これ以上、ロゼやフォスのような犠牲者を生むべきじゃない。そうでしょう? サフィール」

「当然です。セシルをヴィーニュ国に嫁がせる? は! 何をバカなことを言っているのか。彼はエールの婚約者であり、オルタンシア国の大切な民の一人です。それなのに、セシルに濡れ衣を着せて無理矢理手に入れようとするなど、許せる筈がありません!」

「え?」

「私達も協力しますよ。彼の情報は何時も正確で何度も助けていただきました。もう嘘だなんて思いません」

「…………」

「私の許可なく、大切な息子を嫁にとは随分と無礼な男だ。キャラマールとか言う下衆野郎は……」

「いや。貴方の息子はペルルだ『セシル』」

 息子はペルルだけだと言いかけたセシルの両肩に手を置いて、コーラルは優しく微笑んだ。それは、かつてのセシルがどんなに手を伸ばしても与えられることのなかった父親の愛情だった。戸惑うセシルに、コーラルは「安心しなさい」と「息子を守るのが親の義務だ」と断言した。サフィールとエメロードもエールと共に今後の対策を考え始めている。シュエットはシェーヴルに「今後も護衛をお願いします」と「くれぐれも暴走しないように」と忠告していた。

「……セシル様。彼奴は、何処に?」

「エルバの、こと?」

 唐突にロゼに質問され、セシルは困惑した表情で口を開いた。ルカンの話を聞いた後からエルバには元気がなかった。料理をしている時も、掃除や片付けをしている時も、ペルルの着替えを手伝っている時も、浮かない顔をしていた。今日は調子が悪く、何時もならする筈のないミスを連発して、エルバは更に落ち込んで「済みません。疲れているみたいなので、ちょっと自室で休ませてください」と告げて部屋に閉じこもってしまった。

「まさか、離宮の外に」

「い、いや! 外には出てないよ! 自室で休んでるだけ、なんだけど……」

 セシルが告げた瞬間、ロゼはエルバの自室へ迷うことなく足を進めた。今はそっとしておいた方がいいのかもしれない。けれど、一人で考えれば考えるほど悪い方向にばかり考えてしまって自己嫌悪に陥ってしまう。セシルやペルルが「エルバは悪くない」と言っても、彼の心には届かない。ならば、エルバが思い悩む張本人であるロゼに任せた方がいい。そう考えて、セシルはロゼに全て任せることにした。

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あきゅろす。
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