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溺愛王子と純情乙女テディベア 《完結》
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 採寸が終われば暫く会う事はないと思っていたが、シャロンは頻繁にノエルの店を訪れた。忙しくないのかとノエルが疑問に思っていると今は長期休暇中だと言う。必要な勉強やマナー、礼儀作法などは一通り終わっており、マリアンヌからも許可が出ているので、こうして自由に動けるそうだ。

「その小説、私も読みました! 女の子の方が格好よくて王子様で、今迄にない展開ばかりで面白いですよね!」

「そうなんです! 今迄は男性が女性を守る話が多かったんですが、この小説は女性が男性を守る展開が多くて続きが発売される度にドキドキするんです」

「リュヌ王子のピンチに颯爽と駆け付けて守り抜く姿はまるで騎士のようで格好いいのに、たまに見せるリュヌ王子の男前っぷりに女の子になっちゃうローズちゃんが可愛くて可愛くて」

「リュヌ王子が年下と言うのも魅力の一つですよね! 何時も何時も年上のローズさんに弟扱いされていて、男らしくなろうと頑張ってもやっぱり弟扱いされて何時も守られていた王子が、彼女の危機になると本領を発揮して守り抜く姿は感動して言葉が出ませんでした!」

「分かります! 王子様だから求婚してくる方が多く、リュヌ王子を操り人形にしようと誘拐したり、国民を人質に無理矢理言う事を聞かせようとしたりする輩から王子を守るローズちゃんも格好いいけど、そのローズちゃんが隣国の国王に攫われて妃にされそうになった時、リュヌ王子が現れて颯爽と彼女を奪い返す姿は本当に、本当に感動しかなかったです!」

 ノエルが黙々と作業をしている間、シルヴェスターとシャロンは大好きな恋愛小説の話で盛り上がっていた。楽しそうに、嬉しそうに、満面の笑みを浮かべて語るシルヴェスターの可愛い顔を誰にも見せたくないが、ノエルは必死に我慢した。シャロンがエリックの婚約者である事、シルヴェスターが作ったテディベアを褒めてくれた事、彼に出来た初めての友達である事。そう言った事から、ノエルは渋々二人が仲良くしているのを許したのだ。それに、大好きな話をして楽しそうに笑うシルヴェスターを眺めていられると言うのも理由の一つ。

「あの二人、すごく仲良くなってるな」

「ぅう。シヴィーの笑顔は僕だけのものだったのに。可愛い顔を惜しげもなく曝け出して……攫われたらどうしよう?」

「安心しろ。マリアンヌさんとエリックさんが全力で守るって言ってたから」

「あの二人って本当何者? 貴族の中でもかなり階級が高いでしょ? 公爵とか?」

「それを言ったらシルヴェスターさんも侯爵だろ? 今はほぼ無縁状態だけどな」

「あんな最低な毒親共に会わせる訳ないじゃん。シヴィーはもう僕のお嫁さんなんだから」

「騎士団を滅茶苦茶にした確信犯が何を言う?」

「燃やさなかっただけ有り難いと思ってほしいね。それに、アレは自業自得でしょ? 家族が居るにも関わらず、浮気や不倫が当たり前。不正も横領も当たり前。更に愛人の子どもを後継者にするとか裏で色々工作してたんだから怒られて当然でしょ? 僕はそんな最低な男に騙されている女性達を哀れに思って本当の事を教えてあげただけ。その後彼女達がどうするのかは彼女達の自由だよ」

「それが原因で第一騎士団はほぼ壊滅したんだが? 怒り狂った奥さん達が怒鳴り散らして愛人とも遭遇して大乱闘。そして宿舎は全壊。第一騎士団の無能さが国王や貴族達に明るみになって全員処罰。お前が狙ってやったとしか思えねえよ」

「最も重要なのは正しい情報を誰よりも早く入手する事だよ。何処を攻めれば崩れるのか、一瞬で分かるからね。あぁ、スッキリした。これでシヴィーは騎士団に縛られなくて済むんだから一石二鳥でしょ?」

「まあな。第六騎士団が評価されたのもお前の仕業か?」

「え? 何それ? 初耳だけど? 第六騎士団が優秀なのは知ってたけど、僕は何も言ってないよ? ノアが言ったんじゃないの?」

「は? 俺は言ってねえよ。お前とこうしてドレスを作ってる時以外に言う訳ねえだろ?」

「シヴィーは騎士団で孤立してたし、不思議だね。第六騎士団が優秀って言ってたのはノアだけなのに。僕もノアから聞いて知ったんだけどなあ」

 ノアが動くよりも早く、ノエルは行動を起こしていた。第一騎士団を壊滅させる為に。彼は最初、騎士団宿舎を燃やすつもりだった。宿舎が無くなればシルヴェスターの帰る場所はノエルの家だけになるからだ。ノエルはノアに会う度に「宿舎を燃やしたい」と言っていた。ウエディングドレスを燃やした前科があるノエルが言うと本当に燃やしてしまいそうでノアはヒヤヒヤした。服とは違うんだから止めておけと。宿舎が燃えて負傷者が出たら確実に犯罪者として裁かれるから絶対にするなと。シルヴェスターさんを悲しませたいのかと。ノアが必死に説得したお陰で、ノエルは宿舎を燃やすのを諦めた。しかし、次に考えたノエルの報復は放火よりも恐ろしかった。

 彼は第一騎士団の騎士達の秘密を最も知られたくない人達に教えたのだ。妻、婚約者、恋人、許嫁など、第一騎士団は貴族出身の者が多く、彼らは将来が約束された勝ち組だった。しかし、身分が高い故に傲慢で我儘で浮気や不倫と言った女遊びを繰り返し、ギャンブルなどにも手を出して、高価な物を買い漁っていた為、金遣いも荒かった。ノエルはただその事実を教えただけ。至ってシンプルだ。シンプルだからこそ、こちらの方が効果覿面だった。

 ノエルから真実を知らされた妻達は怒り狂い、第一騎士団の宿舎に殴り込みに行った。其処では騎士達が仕事もせずに好きな女を連れ込んで遊んでいたのだから、彼女達の怒りは最もだ。ある者は離婚すると宣言され、ある者は婚約破棄を突き付けられ、ある者は廃嫡され、正に阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。その中には騎士団長や第二王子も含まれており、真面目に仕事をしていたシルヴェスターを虐めていたと言う事実が発覚した途端、国王と王太子が烈火の如く怒り狂い彼を離宮に幽閉したそうだ。王宮の外に出したらまた良からぬ事を考え、恥の上塗りをする可能性があるからだ。

 国外追放でも良かったが、王宮の中に幽閉して管理する方が国王達も安心だと言う事で、第二王子は離宮に幽閉され厳しい監視の元で生活を強いられている。今迄のような贅沢三昧も禁止され、豪華な服や装飾品も取り上げられて囚人のような質素な服を着せられ、食事もパンとスープとサラダだけになった。自業自得だ。むしろ、追い出されなかっただけ国王達に感謝すべきだとノエルとノアは思う。

 唯一不思議なのは、今迄誰も見向きもしなかった第六騎士団がいきなり正当な評価を得られた事だ。今後は第一騎士団の代わりに第六騎士団が全てを取り仕切る事になる。第六騎士団は貴族の中で邪魔者扱いされていた者や身分の低い者が多く存在する為、何時も他の騎士団からバカにされていた。騎士団の中で最も階級が低く、身分も有ってないようなもの。落ちこぼれ集団だと嘲笑われていた第六騎士団が急に注目されたのにも何か理由があるのだろうと思うが、それが分からない。

 ノエルが何か言ったのかと思うが、本人は全く知らないらしい。それに、騎士団についてはノエルよりもノアの方が詳しい。シルヴェスターに第六騎士団が一番優秀と言った事はあるが、ノアは彼とノエル以外に話した事は一度もない。こうしてノエルとドレスを作っている時以外は……

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