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溺愛王子と純情乙女テディベア 《完結》
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 一階からノエルとノアの叫び声が聞こえてシルヴェスターは慌てて二人が居る場所へ向かった。

「ノエルさん! ノアさん! 一体なに……が……」

 店に通じる扉を開けると、其処にはノエルとノアの他に昨日店を訪れたエリックと、可愛らしい少女と、背の高い年配の女性が居た。突然のシルヴェスターの登場に、三人の目が一斉に向けられる。何を言えば良いのか分からず固まっていると、少女は彼が手に持っているものを見て「あ!」と小さな声を上げた。

「それ、ショーウィンドウに飾られているぬいぐるみと同じ……」

「え? あ、えっと、こ、これは……その……」

 作りかけのテディベアを持って来てしまった事に気付いて、シルヴェスターは咄嗟にそれを後ろに隠した。しかし、少女はきらきらと目を輝かせて「見せて!」とお願いしてきた。戸惑いながら作りかけのテディベアを見せると、彼女は「かわいい」と呟いて深々と頭を下げた。

「ありがとうございます。私、あのショーウィンドウに飾られているぬいぐるみに一目惚れして、ずっと、ずっと欲しいって思ってたんです。でも、非売品だから諦めていたんですけど、エリックからこれをプレゼントされて、すごく、すごく嬉しかった。私達の為に作ってくれたんだって直ぐに分かりました。だから、貴方にお礼が言いたくて。本当に、本当にありがとうございます!」

「私からもお礼を言わせてください。二度も無茶なお願いを聞いていただいて、本当にありがとうございます。貴方が居なければ、こんな奇跡は起こらなかった。本当にありがとうございます」

「え? あ、いえ。気にしないでください。決めたのはノエルさんですし、そのぬいぐるみも、魅力的なのはノエルさんが衣装を作ったからで……」

 テディベアに価値はないと言おうとしたシルヴェスターに二人は「そんな事はない!」と否定して、如何にテディベアが素晴らしいか力説した。確かにノエルが作った衣装も素晴らしくて魅力的だ。しかし、同じくらいシルヴェスターが作ったテディベアも素敵で魅力的なのだ。可愛くて、ふわふわで、丁寧に作られたテディベアは一瞬で二人の心を鷲掴みにした。

「あらあら。まあまあ。家の孫娘の為にこんな素晴らしいものを作っていただいて、本当にありがとうございます」

「え?」

「初めまして。私はマリアンヌと言います。この度はシャロンの為に素敵なものを作っていただいて、ありがとうございます。それに、ウエディングドレスの件も貴方が説得してくださったと聞きました。本当にありがとうございます」

 柔らかな表情で深々と頭を下げるマリアンヌを見て、ノエルは「同一人物?」と呟き、ノアは「俺達と態度違いすぎねえ?」と愚痴を零した。その言葉を聞き逃さなかったマリアンヌはメジャーを取り出してムチのようにしならせた。

「お黙り! このクソガキども! アンタらとこの方を一緒にするんじゃないよ!」

「こわ!」

「やっぱり二重人格じゃん! 態度変わりすぎ!」

 ギャイギャイ騒ぐ二人を無視して、マリアンヌは満面の笑みを浮かべて「何か困った事があれば言ってください。力になりますから」と告げた。笑顔になったり怒ったりするマリアンヌに付いて行けず、シルヴェスターは困惑した。何か言わなければと思い、小さな声で「ありがとう、ございます?」と伝えた。

 一瞬にして全員が押し黙ってシルヴェスターを見る。何かまずい事でも言ったのかと彼が不安になっていると、マリアンヌが「ノエル、ちょっと来な」と静かに告げる。倒れているノエルの腕を掴んでズルズルと部屋の奥に引き摺ると、バタン! と扉を閉めてしまった。

「あの、俺、何かまずい事、言いました?」

「あー、シルヴェスターさんは何も悪くねえよ。ちょっと、うん。可愛いて思っただけだら」

「え?」

 ノアに同意するかのように、エリックとシャロンも首を縦に振った。訳が分からないシルヴェスターは困惑した顔で首を傾げた。直後、三人同時に胸に手を押し当てて「う!」と声にならない悲鳴を上げた。

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