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くっころ騎士団長様を救出せよ!《完結》
3
 式典も無事終わり、王宮内は再び落ち着きを取り戻しつつある。お腹の中の赤ちゃんもすくすくと育っていて、愛おしくてついついお腹を撫でてしまう。無意識に撫でていると、時々周囲から「はう!」とか「聖女様!」とか訳の分からない叫び声が聞こえるけど、敢えて気付かないフリをする。

 大和兄さんが俺を支えようとする時はもっと酷い。使用人達が頬を赤く染めて「きゃあ!」と小さな悲鳴を上げる。逆に騎士達は面白くなさそうな顔をして大和兄さんを睨んでいた。俺を支えるのがアーノルドさんだと「流石はアーノルド様!」と騎士達が雄叫びを上げる。使用人の女性達は「大和兄さん派」と「アーノルドさん派」の二つの派閥に分かれていて反応は様々。

 原因は颯太さんが言っていた小説。タイトルは「神子様を我が手に」だ。騎士団長エンドだと表紙に騎士のシルエットが描かれていて、勇者エンドだと勇者のシルエットが描かれている。表紙の色も違っていて、騎士団長は青で、勇者は黒。偶然リナちゃんが持っているのを見て、完全にアーノルドさんと大和兄さんがモデルだと確信した。主人公である神子様の性別は決まっていなくて、男とも女とも思えるような描写で書かれているそうだ。

 リナちゃんの話によると、王宮の使用人や騎士達のほとんどがこの小説を読んでいるとか。それが影響して俺と結ばれるのはアーノルドさんか、大和兄さんかで毎日語り合っているそうだ。仲が良いのか悪いのか。

「今度、この小説を題材にした舞台も公演されるそうですよ?」

「もう、勘弁してください」

「これだけ人気になってしまうと無理ですね。それに、表現は少々大袈裟ですが、ほとんど実話ですし……」

「ぅう」

「エイト様。大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃない、です」

 一体誰がこの小説を書いたんだろう? アーノルドさんと大和兄さんが人気なのは分かる。物腰柔らかで親しみやすいアーノルドさんと、クールで冷たい印象だけど本当は優しい大和兄さん。二人が取り合う相手がリナちゃんみたいな綺麗で可愛い女の子だったら俺だってちゃんと読んだのに。何で二人が取り合ってるのが俺なの? 本当に分からない。

「神子様は昔から人気でしたが、今は国民の間でも話題になる程ですよ? ソウタ様とエイト様、どちらが好きか語り合っているとか」

「颯太さんまでもが被害者に!?」

「結局、どっちも素晴らしいと言う結論に至るみたいですけどね」

「そうなの?」

「はい」

 それはそれで、何だか申し訳ない気がする。颯太さんが凄い人なのは分かるし、みんなから慕われる理由も分かる。だって、颯太さんは本当に優しい人だもん。慈愛に満ちていると言うか、一緒に居て安心すると言うか、まるでお母さん? みたいでついつい甘えたくなっちゃう。オズさんが居るから、あまり無茶なお願いは言えないけど……

「そう言えば、リナちゃんは好きな人とか、居ないの?」

「……内緒です」

「えっと、ごめん」

 嫌な思いでもしたんだろうか。話題を変えたくて質問したけど、リナちゃんの地雷だったみたいだ。笑顔だけど、纏う空気がどんよりしている。これは、深掘りしたらダメなヤツだ。俺が謝るとリナちゃんは「謝らないでください」と言って苦笑した。

「私の気持ちの問題ですから。それに、何時迄も我儘を言う訳にもいきません。ソウタ様が子を産んでくださるとは言え、私も王家の血筋を残さなければならない。それが、王族としての義務なんです」

「好きな人じゃなくても、リナちゃんは結婚するの?」

「そうなるでしょうね」

「…………」

 そんな事ないよ、と言おうとして俺は口を噤んだ。王族や貴族は政略結婚が常識。お互いの意思は関係ない。オズさんと颯太さんがレアケースなだけだ。本当はリナちゃんもあの二人みたいに相思相愛で、心から好きな人と結婚できたら良いのにと思うけど、こればかりは政治も関わってくるから俺が口出ししても意味がない。

 オズさんが知ったら「好きでもない者と結婚しなくていい」と言ってくれると思うけど、リナちゃんは王族の義務だと言って知らない誰かと結婚しそうな気がする。好きな人と結婚できたらいいのにと願うのは、傲慢なのかな?

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あきゅろす。
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