くっころ騎士団長様を救出せよ!《完結》
1
王宮に戻った後も大変だった。俺を殺そうとしたおじいさんは、アーノルドさんと大和兄さんが一発ずつ殴ったと聞いた。おじいさんは罰が決まるまで王宮の牢屋に閉じ込める事になった。その時に二人がおじいさんを殴ったらしい。俺は見ていないと言うか、牢屋に行く事を禁じられているからおじいさんにも会っていない。噂では、二人だけじゃなくて、オズさん、颯太さん、レナードさん、更にはリナちゃんもおじいさんを一発殴ったとか。遼太郎さんとシロガネさんも一発殴ったらしい。色んな人から一発ずつ殴られたおじいさんの顔は見ていられないくらい酷い事になっているみたい。
俺はもう大丈夫なのに、一人で歩いていたら何時も誰かから「転んだらどうするの!?」とか「赤ちゃんいるんだから無理しちゃダメだよ!」とか言われて、アーノルドさんか大和兄さんに抱かれて移動するのが日常になりつつある。二人同時に来た時は大変だ。どっちも譲らなくて、何時も火花散らしている。
「ヤマト。君が強いのは認めよう。だが、エイトの夫はこの俺だ」
「俺より弱い奴に弟は任せられない。それに、結婚したとしても瑛都は俺の大切な家族だ」
「前にも言ったが、君はいい加減弟離れしたらどうだ?」
「アンタが俺より強ければ安心して弟を託すけど?」
「…………」
「…………」
「ワフ」
「アウ」
チョコとショコラも呆れ果てている。アーノルドさんと大和兄さんが一緒になると、何時もこうして言い争うから少し面倒と言うか、殺気立っていて怖い。俺の事を心配してくれるのは嬉しいけど、正直言い争っている二人には近付きたくない。
「あの、アーノルドさん、大和兄さん。喧嘩は……」
「瑛都。ごめん。怖かった? 大丈夫。お前はお兄ちゃんが守るから」
「済まない。エイト。安心してくれ。君はこの俺が守るから」
だから、火花散らすの、やめてほしいんだけど。こうなると誰にも止められない。オズさんかシロガネさんじゃないと止められないから、何時も困ってしまう。二人とも式典の準備で忙しいのに。その式典に大和兄さんも参加する事が急遽決定したんだっけ。神子様で勇者様だから、オズさんとしては大和兄さんを味方にしたいんだと思う。大和兄さん、何故かチート能力があるから敵に回したくないが本音だと思う。可能なら味方になってほしい。でも、颯太さんを「おっさん」と言った事だけは許せなくて、オズさんは今でも大和兄さんを見るとその時の事をグチグチグチグチ言っている。
「あの二人、またですか」
「レナードさん」
「ソウタ様。エイトをお願いできますか?」
「うん。いいよ。瑛都くん、行こうか」
「何時も済みません」
「気にしないで。赤ちゃんいるんだから、気を付けてね」
「ありがとうございます」
レナードさんが来てくれたなら安心だ。俺は颯太さんに背中を支えられながら、その場を後にした。チョコとショコラも一緒だ。事情を話したら「一緒に住んでいい」と言ってくれた。だから、俺の部屋にはチョコとショコラ専用のスペースがある。オズさんと大和兄さんがこの子達の為に作ってくれたんだ。
チョコとショコラは人気者で、何時も誰かに頭を撫でられたり、おやつを貰ったりしている。特に溺愛しているのはリナちゃんだ。この世界には柴犬は居ないみたい。獣の国なら似たような犬は居るけど、柴犬ではないらしい。大和兄さんがちゃんと躾けているのでチョコもショコラもとても賢くて良い子だ。指示通りに従う柴犬が珍しいのか、みんな感動してチョコとショコラの虜になった。
リナちゃんは毎日、チョコとショコラを抱いて「もふもふ」と呟いて幸せそうに微笑んでいる。二匹とも大人しく抱かれているから、リナちゃんはずっと抱きしめていた。
「大和さんから聞いたよ。わんちゃん、帰って来て良かったね」
「孫、ですけどね。でも、嬉しいです」
大事にしなきゃね、と言って颯太さんは優しく微笑んだ。ココアと再会する事はできなかったけど、ちゃんと愛されていた事を知った。沢山愛されて、命を繋いで、多くの人に見守られなながら天国へ旅立った。もう会えないのは寂しいけど、ココアが愛されていたと分かっただけで十分。それに、ココアが繋いでくれた命がある。その命が俺の側に居る。だから、俺はココアに「もう大丈夫だよ」と「俺は今、すごく幸せだよ」と伝えた。心の中で呟いただけだから、ココアに届いているかは分からない。届いていたら、いいな。
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