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くっころ騎士団長様を救出せよ!《完結》
10-アーノルド視点-
 男がナタリアを罵っていると「巫山戯るな!」と誰かが叫んだ。怒りを隠す事なく表情に出し、ズカズカと男の前まで近付いて「訂正しろ!」と怒鳴り散らした。憤慨する老人に、男は楽しそうに口角を釣り上げ「ひっかかった」と呟く。成る程、全て彼の計画通りと言う訳か。つくづく気に食わない男だ。

「お嬢様の事を何も知らないくせに、知ったような口を聞くな! お嬢様がどんな気持ちでアーノルド様を見ていたと思っている!? アーノルド様にはお嬢様こそ相応しいのだ! それなのに、何故あのような何の取り柄もない役立たずがアーノルド様の隣に居るのだ!? そこは本来、お嬢様が立つべき場所だ! 何の苦労もせず、のうのうと生きてきただけの世間知らずが、何故アーノルド様に選ばれるのだ!? 不公平ではないか!」

「だから、瑛都から指輪を奪って森に捨てた訳? 性格わっる」

「黙れ! そもそもこうなったのは全部あのガキのせいなのだ! 大人しくアーノルド様と離婚すれば、命だけは助けてやったのに……子どもも産めないくせに、この私に逆らうから! 悪いのはあのガキだ! お嬢様の為に、邪魔者を排除して何が悪い! あんな神子とは名ばかりの役立たずなど、魔獣に喰われてしまえば良かったのだ!」

 は? 此奴は今、何と言った? 誰が、役立たずだって? さっきから俺のエイトを侮辱するような事ばかり言いやがって……魔獣に喰われてしまえば良かった? この老人は本気でそんな事を思っていたのか? 我慢したくても無理だ。沸々と湧き上がってくる怒りが暴走してしまいそうだ。

 パシン!

「な! 王妃、さま?」

「これ以上瑛都くんの悪口言うなら、この国から出て行け」

「侯爵家の従者であるにも関わらず、お前は常識と言うものが欠如しているようだな」

「オズワルド陛下!?」

「ソウタ様の言う通りです。エイト様はソウタ様とオズ様を助けてくださった恩人。この国の救世主と言っても過言ではありません。そんな大切な方に、貴方は、何をしましたか? エイト様に何と言いましたか?」

「王女、様まで……何故だ、どうして、私は、間違っていない……私は、お嬢様の為に」

「いい加減認めろよ。見苦しいったらありゃしねえ」

「こんなバカがまだ残っていたとは。しかも、チビだけじゃなく腹の中の子ども諸共始末しようとするとは命知らずだな。死罪にならねえ事を祈るぜ」

「……そん……な」

 あのソウタ様が他者を殴るとは。ソウタ様が老人の頬を叩いてくれたお陰で、少しだけ気持ちが落ち着いた気がする。まだ怒りは消えていないが、オズ陛やエヴァリーナ王女、シロガネ様、リョウタロウ様も同じようにエイトの為に怒ってくれていて、みんな俺と同じ気持ちだったのだと思うと安心する。それだけ、エイトは愛されていると言う事だから。

「何か裏があるとは思いましたが、神子様を殺そうとしていたなんて。貴方には失望しました。じいや」

 しっかりとした足取りで老人の元へ歩いて来たのは、明るい茶色の髪に、紫色の瞳をしたご令嬢。ナタリア・フリットウィック様。確かに俺は彼女と何度か話した事はある。しかし、俺も彼女もお互い恋愛感情は抱いていない。それなのに何故、彼女の従者である老人は勘違いしたんだ?

「ナタリアお嬢様! 違うのです! 私は、お嬢様の為に」

「言い訳は聞きたくありません! そもそも、貴方の言っている事は全部間違っているんですよ! 私がアーノルド様を好きだなんて何時言いましたか? 助けていただいたのは事実ですが、私もアーノルド様もそう言った感情は抱いていません。この国を訪れたのは、アーノルド様と神子様に祝福の言葉を伝える為です。それなのに、真逆の事をするなんて……」

「そんな、嘘ですよね? お嬢様はアーノルド様にずっと恋をしていて、彼と結婚する事が夢で……」

「私が好きなのはアーノルド様ではなくタッドさんです! お父様とお母様にもきちんとお話しして結婚する事を許してくれました。貴方にも何度も伝えたのに、どうしてこんなに話が捻じ曲がっているんですか!? 神子様だけに飽き足らず、タッドさんとそのご兄弟にも迷惑をかけるなんて。本当に邪魔なのは貴方の方です! 侯爵家の顔に泥を塗るような事をして、恥ずかしくないのですか!?」

「お嬢様。いいんです。悪いのは私ですから」

「ちっとも良くありません! 愛する人が罠に嵌められて苦しめられたのですから、怒るのは当然でしょう!」

 知っていたから驚く事はなかったが、ナタリア様は本当にしっかりしたご令嬢だ。彼女がエイトを殺そうとしたとはどうしても考えられなかった。彼女も俺と同じように神子様を心から尊敬しているから。その神子様が自分の部下のせいで深く傷付いたとなれば、当然激怒するに決まっている。

「アーノルド様。勇者様。誠に申し訳ありません。其処に居る愚か者への処罰は貴方達にお任せします。どうぞ、煮るなり焼くなり好きにしてください」

「お嬢様!?」

「それと、こちらの指輪もお返しします」

 老人の言葉は全て無視して、ナタリア様は白い布に包まれた指輪を返してくれた。エイトと一緒に選んだ、大切な指輪。ナタリア様が大切に保管してくれていたようだ。ナタリア様から指輪を受け取ると、彼女は再び俺達に頭を下げて謝罪した。

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あきゅろす。
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