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くっころ騎士団長様を救出せよ!《完結》
9-アーノルド視点-
 再び男と剣を交えようとしたその時、一人の男が間に割って入って来た。突然の乱入者に俺は慌てて足を止め、振り上げていた剣を下ろす。男は涼しい顔をして乱入者を見下ろしていた。こうなると最初から知っていたのか、男は全く動揺していない。

「もう、やめてください。勇者様。アーノルド様は何も悪くないんです! 悪いのは私なんです! 私が、私が神子様を森の中に捨てました!」

 男はタッド・デュマと名乗り、全てを打ち明けた。彼には弟が居る事。その弟が運悪く魔獣に襲われて以降、ずっと寝たきりの生活だと言う事。魔獣の爪には猛毒があった事。弟の命は助かったものの、猛毒が身体中に巡って命を落とすのは時間の問題だと言う事。弟を助ける為には、一番高い治療薬を買わなければならない事。しかし、彼の身分では到底手に入るものではなく、途方に暮れていたところにある人物が声をかけてきた事。言う通りにすれば、弟を助ける為に必要な治療薬を買ってやると言われ、男はその人物の命令に従った。

「私が、愚かだったんです。弟の命と神子様の命を天秤にかけて、どちらかを切り捨てる事なんて、私にはできない。ですが、神子様を殺そうとしたのも事実。勇者様、罰を与えると言うなら、私だけにしてください。アーノルド様は、何も悪くないんです。お願いします! 勇者様! お願い、します!」

 地面に頭をこすりつけて懇願するタッドを、男が冷たく見下ろす。何を考えているのか分からない表情だ。

「アンタは利用されただけだろ? 俺が知りたいのは弟を殺そうとした首謀者。つまり黒幕。アンタ、誰か知ってんだろ?」

「そ、れは……」

「隠しても無駄。黒幕が誰なのか、もう知ってるから」

「そんな!」

「俺の弟を森に捨てて殺せってアンタに命令した黒幕って、侯爵家のお嬢様だろ? アーノルドにずっと恋をしていたって言う」

「ち、ちが……ナタリア様は関係ありません! 彼女は何も知らないんです!」

「どうせ演技だろ? 爵位を与えられるって知った途端、アーノルドと結婚したいとか身勝手にも程があるだろ? しかも、俺の弟から指輪を奪って森に捨てて消そうとするとか性格悪すぎ。これだけ心が醜くて腐ってんだ。どうせ見た目も他人に見せられないくらい醜く歪んでいるんだろうな」

「え? えっと、勇者様? 今、何と? なんて言ったのですか?」

 随分と辛辣な言い方をするものだ。それ程、彼はエイトを殺そうとした黒幕に対して凄まじい憎悪を抱いていると言う事か。当然、俺も彼と同じ気持ちだ。不本意だが、エイトを殺そうとした者を許せそうにない。だが、不思議な事に集まった者達は首を傾げている。かなり大きな声で罵っていたと言うのに、聞き取れなかったのか? タッドも「聞こえなかったんですが」と困惑しながら男を見上げていた。

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あきゅろす。
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