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くっころ騎士団長様を救出せよ!《完結》
2
 出会った時の冷たい態度は一体何だったのか。家を訪ねたのが俺だと知ると、大和さんは甲斐甲斐しく俺のお世話をしてくれた。濡れたままだと風邪をひくからとお風呂に入らせてもらって、新しい服も用意してくれて、体を冷やすと良くないと言って毛布で包んでくれた。足の怪我も治癒魔法で治してくれて、温かいご飯も作ってくれた。

「あの、大和さ『兄さん』え、っと、大和兄さんは、何時から、この世界に?」

「九ヶ月か十ヶ月くらい前」

「それって……」

「お前を捜してる時に、俺も巻き込まれたらしい」

「巻き込まれたって……なんで」

 大和さんは両親から愛されていた。容姿が整っていて、勉強もスポーツもできて、将来も約束されている完璧な人。そんな人が、どうしてこの世界に居るんだろう? 俺が、巻き込んじゃったのかな? 俺のせいで、大和さんの人生、ぐちゃぐちゃになったって事?

「前の世界に、未練なんてない。あんなの、親とも思いたくなかったし」

「え?」

「当然だろ? 金があるくせに、たった一人の家族だった愛犬捨てて、お前には必要最低限の金しか渡さず、ボロ屋敷に放置して、お前の両親が汗水垂らして必死に稼いだ金も、自分の為に使っていた馬鹿をどうして親だと思えるんだ?」

「で、でも、あの人達は大和さ『兄さん』にい、さんの事は大切にしてたよ?」

「俺が有名な大学を出て、一流企業に入社すれば自慢できるからな。彼奴らは俺の容姿と成績とステータスしか見てない」

「…………」

「それに俺、お前が高校を卒業したら彼奴らとの縁を完全に切るつもりだったから」

「なんで」

「俺の家族は、お前と、ココアとその子犬と、チョコとショコラだけ。それ以外は必要ない」

「ココア?」

 ココアは、俺が飼っていた柴犬の名前だ。両親が亡くなった俺にとって、たった一人の大切な家族。でも、ココアと一緒に引き取ってくれる人は誰も居なくて、ココアだけならと言って連れて行かれそうになると、俺はココアに抱きついて「嫌だ! ココアと離れたくない!」と泣きじゃくった。大人の人達は呆れたような、面倒くさそうな顔をして「我儘だなぁ」と呟いていたけど、ココアだけは譲れなかった。だって、ココアまで失ってしまったら、俺は本当にひとりぼっちになっちゃう。それが嫌で、俺はココアに抱きついたまま離れなかった。

 大和さんの両親は、ココアも一緒に引き取ってくれると言ったけど、最初にした約束は全部嘘だった。ココアも一緒に住んでいいって言ったのに。ココアの面倒もちゃんと見ると言っていたのに。あの二人は、俺達を引き取ってすぐにココアを捨てた。家の中が汚くなるから。あんな毛玉の為に使う金が勿体ないから。吠えて近所迷惑になるから。役立たずで邪魔だから。そう言って、二人はココアを何処かに捨ててしまった。

 俺は毎日毎日ココアを探したけど、結局見付からなかった。夜遅くまで探しても見付からなくて、トボトボと家に帰ると、二人は俺を見て「汚い」と言った。ココアを探す為に狭い所や埃まみれの所に行ったから、服も体も汚れていた。迷惑だから犬を探すのはもうやめろ。やめないなら、家から追い出すからな。本当はココアを探したかった。でも、それ以上に二人が怖くて、俺はココアを探すのを諦めた。

「ココアの事、今でも気にしてる?」

「……うん」

「ワン!」

「え? ちょ、っと、ま……あれ? ココア?」

 突然、柴犬が俺の膝の上に乗ってきた。俺の顔をペロペロ舐めて、頭をすりすりしてくる。一瞬、目の前に居る柴犬がココアに見えた。気のせいかな?

「似てて当たり前。ショコラはココアの孫だから」

「え?」

「俺が見付けた時にはもう老犬で、お前に会わせる事が出来なかった。でも、捨てられた後、直ぐに優しい老夫婦に拾われて、大切にされていたから幸せだったと思う」

 そう言って大和さんはテーブルに一枚の写真を置いた。優しそうなお爺さんとお婆さんに頭を撫でられている柴犬の写真。楽しそうで、幸せそうで、見ているだけで心が癒される。柴犬が咥えているボロボロになった犬ぬいぐるみを見て、俺は我慢できず泣いてしまった。

「そのぬいぐるみ、お前がココアにあげたやつだろ? 捨てられた後もずっと離さずに持っていて、老夫婦の家に居た時も、このぬいぐるみだけは誰にも触らせなかったそうだ」

「ココア……」

「お前の事、ずっと心配してた。だから、ココアに『俺が守るから安心しろ』と伝えておいた。ココアは安心したように目を閉じて静かに息を引き取った。愛する人達に見守られながら。だから、ココアはもう大丈夫だ。それに、ココアだってお前の泣いてる顔よりも笑った顔の方が見たい筈だ」

「ワフ」

「ココアにしてやれなかった事は、ショコラとチョコにしてあげればいい。沢山遊んで、沢山愛して、ずっと一緒に居ればいい」

 涙が止まらない。大和さんは泣きじゃくる俺の頭をそっと撫でて「我慢しなくていいから」と言ってくれた。ずっと後悔してた。ずっと、ココアに謝りたいと思っていた。寂しい思いをしていないか、辛い思いをしていないか、お腹を空かせていないか。ココアはちゃんと生きていた。優しい人に引き取られて、大切にされていた。その事実が嬉しくて、ココアがずっと俺の事を覚えていてくれた事が嬉しくて、ココアが繋いでくれた命がある事も嬉しくて、何度も何度もココアにお礼を言った。

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あきゅろす。
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