くっころ騎士団長様を救出せよ!《完結》
10-アーノルド視点-
休暇はあっと言う間に過ぎ去り、今日からまた多忙な日々に逆戻りだ。落ち着いたとは言え、まだまだ解決していない問題が山積みだ。エイトと会える時間が減ってしまうと思うと、それだけで気が重くなる。本音を言うと休暇中にエイトから答えを聞きたかったが、そんな素振りは一切なかった。夜のお誘いはあるものの、やはり時期が早過ぎたのだろう。
「結局、薬は使わなかったんだな」
「エイトの気持ちが一番大切ですから」
「その割には休暇中、かなりお楽しみだったじゃねえか」
「時と場合を考えやがれ。このバカ犬」
「そう言った話は公共の場でするものではない。だが、本当に良かったのか? これからまた多忙な日々が続くぞ?」
「構いません。それが俺の仕事ですから」
そう言いはするものの、少し落ち込んでいるのも事実だ。こんな事ではオズ陛下の護衛騎士は務まらないと言うのに、考えてしまうのはエイトの事ばかり。
「お前がそう言うなら、俺は何も言わない。今から仕事に向かうぞ」
「御意」
気持ちを切り替えて、回廊を進むオズ陛下の後を追って足を踏み出した時、他の騎士や侍従達が騒ついた。何事かと思い後ろを振り返ると、其処にはエイトが立っていた。彼の手にはリョウタロウ様から貰った特殊な薬が入った瓶。
「エイト?」
「赤ちゃん、ほしいならほしいって言ってくれれば良かったのに」
「え?」
「こんな面倒な事しなくても、アーノルドさんが『今すぐ赤ちゃんがほしい』って言ってくれれば、この薬だって飲んだのに」
「それは、どう言う……」
「いくら待っても、俺から誘っても言ってくれないから。今から実力行使する」
何をするのかと見守っていたら、持っていた小瓶の蓋を開けて彼は何の躊躇いもなく中の液体を飲み干した。突然の事で頭が付いて行けず動く事ができない。
「エイト! 何をしてるんですか!」
レナードの叫ぶ声を聞いて漸く、何が起こったのか理解して俺は慌ててエイトに駆け寄ろうとした。しかし、その必要はなく、気が付くと彼が目の前に居た。驚く俺の両頬に手を添えたかと思ったら、そのまま顔を近付けてきて唇に柔らかな感触。それが、エイトの唇だと気付くのに数秒かかった。
「俺も、赤ちゃんほしい。お仕事終わったら、いっぱいアーノルドさんの、ちょうだい」
何を言われたのか分からなかった。耳元で囁かれた言葉は都合の良い幻聴か? それとも現実か? 恥ずかしそうに顔を赤く染めてもじもじしているエイトを見て、これが現実だと実感する。
「伝えたい事は伝えたから!」
バッと俺から離れ、エイトは走り去ってしまった。彼の後を追いかけようとしたがオズ陛下に肩を掴まれ「お前は今から仕事だろう?」と言われた。それは分かっている。分かっているのだが……
「離してください! オズ陛下! 俺はエイトと愛の結晶を作ると言う重大な任務が」
「それは! 夜に! する事! だろう! 今は! 仕事が! 優先だ!」
「エイトを一人にはできません!」
「団長、今は仕事の方が重要かと」
「アーノルドさんのお仕事が終わるまで、俺が瑛都くんの傍に居るから」
「そんな! オズ陛下! なんて無慈悲な!」
「正当な! 理由だ! 無慈悲でもなんでもない!」
「エイトォオオオオオオ!」
「はいはい。仕事に行きますよ。団長」
く! 此処に俺の味方は居ないのか! オズ陛下だってエイトと同じ事をソウタ様から言われたら我慢できないくせに! こんな生殺し状態で仕事なんて拷問じゃないか! ソウタ様がエイトの傍に居てくださるのは有り難いが、やはり俺がエイトの傍に居たい!
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