くっころ騎士団長様を救出せよ!《完結》
7-アーノルド視点-
ある程度予想していた事だが、俺をオークに売ったのは国王とメルヴィルだったらしい。その他にも加担した者は多いが、主犯はメルヴィル。騎士団長の座を俺に奪われたのが余程悔しかったのだろう。会う度に嫌味を言っていたから、心から俺の事を憎んでいたに違いない。だから、俺を騎士団長の座から引き摺り下ろす為に俺に単独任務を命じ、オークの住む洞窟へ誘導した。どうやら飲み水や食べ物にも即効性の媚薬が仕込まれていたらしい。
「エイトが居なければ、今頃お前は奴らの性奴隷にされていただろうな」
「悪夢ですね」
「厄介な男に好かれたものだ」
「冗談でしょう?」
「本当だ。あの男、お前に一目惚れしたそうだ。欲と快楽に溺れるお前の顔を見たかったんだと」
歪んだ性癖だな。オズ陛下の顔が歪む。あの男が俺の事を好きとか、おぞましいにも程がある。しかも、オークに俺を襲わせて快楽に溺れきった俺を買い取るつもりでいただと? 一生性奴隷として飼うつもりだった? 気持ち悪すぎて吐き気がしそうなんだが……
「神子はそう言ったものの効果を無効化する力がある。様々な説があるが、異世界から来たばかりの神子はこの世界のものを受け付けない、若しくは無意識に除外しているそうだ。オークの媚薬がエイトに効かなかったのも、媚薬漬けにされて動けなかった君が動けるようになったのも、彼が無効化したからだ」
未だに無効化できるもの、できないものの区別は分からない。恐らく、神子にとって有害なものが無効化できると言うのがオズ陛下の考えだ。しかし、それもこの世界の料理を食べたり、誰かと恋に落ちて体を交えたりしたら、その力は失われてしまう。これだけ聞くと残念に思うが、それは神子がこの世界を受け入れて馴染んでくれた証明にもなるので、そこまで悲観する事ではないそうだ。
「ソウタが正気に戻ったのも、エイトの協力があってこそだ。彼は何もしてないような言い方をするが、俺もソウタもリナも、エイトには心から感謝しているんだよ。赤の他人なのに、断る権利もあったのに、エイトは俺の無茶な願いを聞き届けてくれた。まるで、それが当たり前だと言うように……」
そう言えば、初めて会った時もエイトは俺を助けてくれたな。殺されるかもしれないのに、自分だって大怪我をするかもしれないのに、彼は何の見返りも求めずオークに捕まった俺を助けてくれた。ソウタ様を助ける為に、無条件で協力してくれた。彼が作った料理も当然のように「良かったら食べてください」と俺達に分け与えてくれた。エヴァリーナ王女にも「自分を大切にして」と優しい言葉をかけていた。知れば知るほど、エイトの事が好きになる。何の見返りも求めず人助けをするエイトと結婚できた事がこんなにも誇らしい。多くの人に自慢したい気持ちと、エイトの魅力を誰にも知られたくない気持ちがせめぎ合う。
「オズ陛下。どうしましょう。俺、エイトを誰にも渡したくありません」
「結婚してるんだから手放す必要はないだろう? それに、お前達は相思相愛だろう? 手放す理由がどこにある?」
「勿論、エイトを手放すつもりはありませんが……自ら命を絶とうとした姿を思い出すと、今でも不安で」
「それは、申し訳なかった。俺がもっと早く魔法陣を完成させていれば、あんな事には……」
「オズ陛下を責めている訳ではありません! エイトを守れなかった自分自身に腹が立っているんです! 死ぬつもりはないと言ってくれましたが、それでも、不安が消えてくれないんです」
メルヴィルが俺の屋敷に乗り込んで来たのは完全に予想外だった。本当ならもっと時間をかけて、オズ陛下を国王にする計画だったが、運悪くエイトを見られてしまい、俺達は国王に捕まった。本当に余計な事ばかりしてくれるな。あのクソ金髪野郎。しかも、俺に惚れているにも関わらず神子にも惚れたとか、クズとしか言いようがない。あんな奴らに俺のエイトが奪われなくて良かった。
それに、エイトは俺を選んでくれた。俺の傍に居る事が幸せだと、彼は断言してくれた。本当なら、エイトの言葉を信じなければいけないのに、信じきれない自分がいる。今回は運良く助かったが、また同じような事になったら、エイトは生きてくれるだろうか。俺が傍に居る時はいい。どんなものからもエイトを守ると誓っている。しかし、俺が居ない間にエイトの身に何かが起きたら? 俺達が助けに行くまでに酷い事をされていたら?
「そんなに不安なら、孕ませちまえば良いだろう?」
「うわ!」
「シ、シロガネ様!? 何時から此処に!?」
「あのチビが時間稼ぎしてくれたお陰で、オズの魔法陣が完成したから何とも言えねえが……俺達もあのチビには生きていてほしいからな。ガキを作るって言うのは最善策だと思うぜ」
「リョウタロウ様まで!?」
「待て。エイトの意思はどうなる? 孕ませろと簡単に言うが、それが何を意味するのか分かっているのか?」
「遅かれ早かれガキは産ませるんだろ? なら、彼奴の場合は早めに孕ませた方がいい」
「薬は貰ったんだろ? お前に話したって事は、あのチビもお前とのガキを望んでいるって事だ」
「確かに、エイトとの子どもはほしいが……」
時期が早過ぎる。式典や結婚式もまだ先で、王宮での暮らしにも慣れていないのに、更に混乱させるような事はしたくない。そして何より、エイトの了承も得ず俺達だけで勝手に話を進めて子どもを産ませたくない。
「あのガキ、次に何かあったら確実に自害するぜ」
「俺達だって本当はこんな事言いたくねえよ。だが、あのチビは危険だ。俺達が見守っている間は良いが、彼奴が一人になった時、誰かがあのチビに『お前が居なくなればみんな幸せになれる』って言ったら、彼奴は間違いなく自殺する。その確率を下げる最善策は、あのチビを孕ませる事だ。自分の腹の中に新しい命が宿っていると分かれば自殺なんてしねえだろ。自分の子どもを守る為に生きる筈だ」
「……それしか方法はないのか?」
「他にあると思うか?」
「…………」
エイトをこの世界に繋ぎ止める為には、孕ませるしか方法はない。リョウタロウ様もシロガネ様も、冗談で言っている訳ではないようだ。神子を辱めようとする輩なら掟によって弾かれるが、悪意ある言葉までは弾く事ができない。エイトを思っての提案だと分かるが、やはり抵抗はある。勝手に決めて、勝手に孕まされたら、エイトはどう思うだろう? 今以上に傷付いてしまうのではないか。
「これはあくまで提案だ。判断はお前に任せる。休暇をもらっている今の内に動いた方がいいぜ」
「……考えておきます」
そう言ったものの、俺は悩んでいた。薬を使ってエイトを孕ませるべきか、否か。エイトには生きてほしい。ずっと、俺の傍に居てほしい。子どもだって産んでもらいたい。けれど、やっぱりエイトと話し合って決めたい。とても大切な事だから……
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