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くっころ騎士団長様を救出せよ!《完結》
※6-アーノルド視点-
 眠ってしまったエイトの体を風呂場で綺麗にする間に、使用人を呼んでシーツを取り替えてもらう。ほんのりと赤く染まった頬、ぷっくりと膨れた艶のある唇、少し赤く腫れた胸。眠っていると年齢よりも幼く見えるが、なんとも言えない色気が漂ってきて襲ってしまいそうになる。エイトの中に出してしまったものを掻き出す時も、苦しげに甘い声を出し、自分から誘うように身体を密着させてきた。もう一度抱きたい衝動を理性で必死に抑え、エイトの身体を綺麗にした。

「手放せると、思っていたのにな」

 新しいものに取り替えられた綺麗なベッドにそっとエイトを寝かせ、俺も横になった。すやすやと眠るエイトの髪に触れて指で弄りながら、そっと彼を抱き寄せる。エイトから伝わってくる体温が心地いい。誰にも渡したくない。触れさせたくない。可愛らしく喘ぐ声も、熱と欲で蕩けた瞳も、俺の与える快楽に溺れて乱れる姿も、素直に甘えて全身で強請ってくる姿も、俺だけが知っていればいい。

 本当は、結婚式が終わるまで待つつもりだった。エイトが本気で嫌がるなら、離婚も考えていた。でも、やっぱり無理だ。今更エイトを手放すなんて出来ない。俺以外の男の隣に立つエイトを想像するだけで、嫉妬心で頭が狂いそうになる。

 今でも鮮明に思い出される国王に捕まった時の光景。あの時も、俺は嫉妬と怒りに支配されて必死に自分の心を落ち着かせていた。神官に拘束されたエイトを値踏みするような目で見る者、舐めるように眺めて下卑た笑みを浮かべる者、エイトを辱める事しか考えていない者。不安と恐怖に彩られたエイトの顔を見て興奮すると宣う変態も居た。

 巫山戯るな。神子は、エイトは貴様らのものじゃない。俺の、俺だけの神子だ。俺だけのエイトだ。薄汚い手で、俺の神子に、エイトに触るな! その思いが通じたからなのか、奇跡が起きたのか、エイトの頸に顔を近付けた神官が吹き飛ばさた。その時に拘束具も壊れたらしく、エイトは俺の前にやって来て近くにいた騎士から剣を奪い取った。

 安堵したのも束の間、彼は奪った剣を自分の首に押し当てた。エイトは国王に向かって「二人を殺すって言うなら、俺は今此処で首を斬って死ぬ」と断言した。俺とレナードが必死に叫んでも、彼は剣を下ろさなかった。どうせ脅しだ、そんな事出来る筈がないと鼻で笑われると、エイトは更に強く剣を押し当てた。剣が触れている場所から、赤い血が流れ落ちる。

「ごめん。アーノルドさん。俺、本当は、死にたかったんだ。ずっと、ずっと前から、死ぬ事だけを、願ってた」

 ソウタ様の言っていた事は本当だった。心の何処かで嘘だと、冗談だと思い込んでいた。初めて聞いた、エイトの本当の気持ち。何故、もっと早くに言ってくれなかったんだ。どうして俺は気付けなかったんだ? 幸せにすると言っておきながら、肝心な時にエイトを守れない。それどころか、逆にエイトに守られる始末。悔しくて、腹立たしくて、俺は俺自身に腹が立った。

「俺、アーノルドさんの事が好きだよ。大好き。アーノルドさん以外に抱かれたくない。触られたくない。神殿に行ったら、俺は俺でなくなる。心も体も、壊されちゃう。だから、そうなる前に、先に逝くね」

 俺だってエイトが好きだ。君が思っている以上に、好きで好きで、愛おしくて仕方ない。それなのに、エイトが命を絶とうとする姿を見ている事しかできない。無理矢理拘束具を外そうとしてもビクともせず、俺は目の前で大切な人を失ってしまうのかと絶望した。

「君は、今でも死にたいと思っているのか?」

 リョウタロウ様が阻止してくれたお陰で、エイトを失わずに済んだ。戸惑う彼を自分の腕の中に閉じ込めて漸く安心した。首に巻かれた包帯が痛々しいが、それでもエイトが生きている事が嬉しかった。それと同時に、俺は自分の情けなさを嫌と言う程痛感した。エイトを助けるのは俺が良かった。俺がエイトの心を救いたかった。エイトの居場所になりたかった。

 こんな情けない自分が、エイトの傍に居る資格はあるのだろうか。また、同じような事が起きた時、俺はちゃんとエイトを守れるだろうか。それなのに、エイトを手放したくないと、独占したいと、貪欲に彼を求めてしまう。エイトに触れたいと、抱きたいと思うのは、あの場に居た者達と同じじゃないのか。俺も、神子の寵愛を渇望する醜い魔物と変わらない。

「あー、のるど、さん? ど、したの?」

「少し前の事を思い出していただけだ」

「前の、こと?」

「あぁ。俺も、奴らと同じだなと」

 寝惚けているのか、うとうとしながら舌ったらずな声でエイトが聞く。眠いならゆっくり眠ればいいのに。寝ていいよと頭を撫でると、気持ち良さそうに俺の手に擦り寄ってくる。

「ぜんぜん、ちがう。おれ、あーのるどさんだから、ぜんぶ、あげたんだよ? だいすきだから」

「俺だから?」

「ぅん。もう、しにたいなんて、おもってない。ずっと、あーのるどさんの、そばにいたい。それが、おれのしあわせ、だから」

 沈んでいた心が一気に軽くなる。エイトは何時も俺の欲しい言葉をくれる。折角、逃げるチャンスを与えてあげたのに、自分から飛び込んできて俺を喜ばせる。俺がどんな思いで我慢しているかも知らずに、無邪気に、無防備に抱き付いてきて、俺が欲しいなんて言われたら、理性なんて働かない。ずっと求めていた、俺だけの神子。エイトの心も身体も、全部俺のものなんだと思うと、優越感と幸福感で心が満たされる。

「俺も、エイトが傍に居てくれて、すごく幸せだよ」

「うれしい。ね、あーのるど、さ……いっしょに、ねよ?」

「分かった。一緒に寝よう。エイト」

 エイトの声を聞いていたら、俺も眠くなってきた。彼が傍に居るだけでこんなにも安心するなんて、自分でも驚きだ。騙すような形で結婚してしまったけれど、俺は後悔していない。結婚したお陰で、国王達からエイトを守れたのだから。それに、エイトが自分の意思で俺を選んでくれた。俺の傍に居る事が幸せだと言ってくれた。こんな事を言われたら、情けない自分が許せなくて後悔して悩んでいたのが馬鹿らしく思えてくる。最初からエイトを手放す気なんてなかったのに。今の俺ではエイトを守れないなら、ちゃんと守れるように強くなればいいだけの話だ。

「君は、俺が守るよ」

 すやすや眠るエイトの額にそっと口付けて、俺も深い眠りに就いた。

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