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くっころ騎士団長様を救出せよ!《完結》
9
 心が手に入らないなら身体だけでも、と国王達は考えていたらしい。先に身体を手に入れて後からゆっくり心も奪えばいいと呑気な事を考えていた。でも、ソウタさんは最後まで抗って心だけは国王達に渡さなかった。心が壊れてしまうくらい酷くされても、心が壊れた後も、ソウタさんが心配したのは、求めたのはオズさんだった。

 正気に戻る前のソウタさんを実際に見ているから、ソウタさんがどれだけオズさんを大切にしていたのかよく分かる。虚ろな目をして、オズさんの姿も確認できず、新しいご主人様だと思い込んで必死に許しを乞うソウタさんを、オズさんはどんな気持ちで見ていたのだろう。やっと助け出したのに、ソウタさんはもう心が壊れていて、魂の半分は向こうの世界に行っていて、どんな魔法も治療薬も効果がなく、正気に戻す方法はないと言われた時、どれ程の絶望を味わったんだろう。ソウタさんを守れなかった自分自身を責めて後悔して、国王達を心から憎んで呪って、傍に居るのに意思疎通は出来なくて……

「そんな、下らない理由で、ソウタ様は理不尽とも言える仕打ちを受け続けたと言うのですか? こんな、稚拙な理由で……」

「リナちゃん」

「お前達のせいで、どれだけソウタ様とオズお兄様が後悔して苦しんだと思っている!? 愛されたかった? 愛情が欲しかった? だったら、オズお兄様やシロガネ様、アーノルドさんのように神子様を大切にすればいいだけの話でしょ? 好きなら好きだときちんと気持ちを伝えれば、好かれる努力をしていれば、神子様だって考えてくれたかもしれないのに。例え結ばれなくとも、友愛や家族愛と言った別の愛を貰えたかもしれないのに……」

 ギュウッと自分の手を強く握りしめて、エヴァリーナさんは震える声で言った。彼女の言っている事は正論だ。ソウタさんがオズさんを受け入れたのは、オズさんが彼を心から愛して大切にしているから。シロガネさんがリョウタロウさんの番になったのも、シロガネさんが自分の気持ちを嘘偽りなく伝えてリョウタロウさんが受け入れたから。俺がアーノルドさんと結婚したのも、アーノルドさんが俺を沢山甘やかして優しい言葉をくれるから。

 それに、求婚して断られたとしても友達としての愛や、家族としての愛はもらえたかもしれない。だって、ソウタさんはエヴァリーナさんの事も心配して、彼女の頭を優しく撫でていた。リョウタロウさんも彼女の手助けをしているし、俺だってエヴァリーナさんが自分を犠牲にしようとしていたって聞いて心配した。

「この国の王はオズお兄様です。神子様を苦しめる存在など、この国には必要ありません」

「エヴァリーナ、何を言って」

「本当に頭が悪いですね。ならば、もっと分かりやすく言いましょう。無能な老いぼれはとっとと引退して、オズお兄様に全て譲れと言っているんですよ。王族の恥さらしどもが!」

 王女様、やっぱり怖い。ソウタさんの為に怒ってくれているのが分かるから誰も何も言わずエヴァリーナさんを見守っている。リョウタロウさんなんて満面の笑みを浮かべて「いいぞ、もっとやれ」とか言ってる。この状況を楽しんでない? ソウタさんは「リナちゃん! 女の子がそんな言葉を使っちゃダメだよ!」と別の方向に注意しているし、シロガネさんは声を殺して笑ている。

「ぐぅ……くる、し。わ、分かった。い、言う通りにする! だから、命だけは、ぁぐ!」

「その言葉に嘘偽りはないな?」

「も、ちろん、だ。今、この時より、この国の、王は……ぐ、お前、だ。オズ、ワルド」

「はあ。もう少し抵抗してくれると思ったんだが、こんなにあっさり王の座を明け渡すとはな」

 もっと苦しめたかったのに。最後のオズさんの呟きは聞かなかった事にしよう。急に国王達が苦しみ始めたけど、オズさんが魔法で首を絞めてたとか、ないよね? ね? ソウタさんにした仕打ちを思うとオズさんの気持ちも分かるけど、笑顔で言う言葉じゃないよね? 苦しめたかった、なんて……

「言質は取った。お前達は処罰が決まるまで神殿にでも籠っていろ」

 国王達に突き付けられていた光の剣だけ消えたが、両手を縛る光の縄のようなものは残っている。オズさんが国王達に冷たく言うと彼らが居る床が光って魔法陣が出たかと思ったら一瞬にして彼らの姿が消えた。

「約束通り、俺は誰も殺さなかったよ。ソウタ」

「オズ! ありがとう!」

 ソウタさんが駆け出してオズさんを強く抱きしめる。「よく頑張ったね」と、「全部、終わったんだね」と言ってソウタさんは涙を流す。オズさんもソウタさんを抱きしめ返して「もっと褒めてくれ」と「俺の傍に居てくれ」と優しい声で言う。二人の表情はとても幸せそうで、こっちまで泣きそうになる。

「ソウタ様は優しすぎます。あんな魔物、全員斬首すれば良かったのに」

「俺達に明け渡してくれたら、非常食として保存したのにな」

「シロガネ様、それはやめておいた方がいいと思います。あのような腐敗物を食べたらお腹を壊してしまいます。噛み殺す程度でいいかと。可能なら、直ぐに殺すのではなくゆっくりじわじわと痛みと恐怖を与える感じでお願いします」

「言うじゃねえか。リナ」

「いや。もう終わったのにえげつない話をしないで?」

 エヴァリーナさんが一番ヤバい人になってる。可愛らしい笑顔で言う事じゃない。そう言うところ、オズさんと似てるけど、こんな共通点で兄妹なんだと思いたくなかった。もっとこう、恥ずかしがる姿が似てるとか、ちょっとした仕草が同じとか、微笑ましい事で兄妹だと感じたかった。

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あきゅろす。
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