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くっころ騎士団長様を救出せよ!《完結》
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 ソウタさんも俺も駄目だと知ると、国王達はリョウタロウさんに「妻になれ!」と言った。見境ないと言うか、神子なら誰でも良い感じだ。当然リョウタロウさんは断ったし、獣の国の王妃を寄越せとか国際問題に発展しても可笑しくない事案だぞと呆れた声で言った。シロガネさんが嫉妬して暴れ狂うと思ったけど、そんな事はなくリョウタロウさんを抱き寄せて「リョウタロウは俺の番だ。リョウタロウを手に入れた俺が羨ましいか?」と逆に国王達を挑発してる。調子に乗って煽っていると「五月蝿え! このバカ犬!」と叫んでまた殴った。キャイン! と情けない悲鳴を上げてシロガネさんは大人しくなる。獣の国を牛耳ってるの、若しかしてリョウタロウさんの方?

「ずっと疑問だった。お前達は何故、そこまでして神子を求める? 夜の相手に困っているなら専用の店に行くなり、娼婦を抱くなりすればいい話だ。神子に拘る必要が何処にある? 何故、神子を性欲処理の道具にした?」

 冷え切った声でオズさんが国王に問う。しかし、オズさんの望む答えは返って来ない。神子は平等に愛を注ぐべきだと繰り返すだけ。それが神子の役目だと言うだけで話にならない。他の貴族達も同じだ。神子を独り占めするなんて許せないとか、我らにも神子の慈悲をとか訳の分からない事を言っている。

「はあ。薄々気付いていたが、こんなアホな理由で颯太を襲っていたとはな。頭が痛い話だ」

「アホ?」

「この世界の王族貴族ってのは政略結婚が常識だ。親が決めた相手、血筋や子孫を残す事が重要で、当然二人の間に愛はない。冷え切った関係が普通だから、当然産まれた子どもも愛を知らず育ってしまう。愛を知らない親が我が子に愛を注げる訳ねえもんな。愛が無いのが普通。そもそも愛と言う概念自体、奴らは分からねえんだよ」

「えっと、つまり?」

 彼らが愛を知らず育った事と、ソウタさんを襲った事がどう結び付くのか分からずリョウタロウさんに聞くと彼は分かりやすく説明してくれた。俺達異世界人は余程の理由がない限り、誰かから愛されて育つ。恋愛結婚が主流で子どもを大切に育てる考えも行き渡っているから、自分よりも弱い者を守るのは当たり前だと思っている。勿論、全ての人に当て嵌まる訳じゃないし、最低な人間も存在するけど、この世界の王族貴族どもよりかはマシだ。

 ソウタさんがこの世界に来た時、初めて見たのが太った貴族のような男に犯されそうになっている幼いオズさんだったらしい。ソウタさんは貴族の男を殴って気絶させ、まだ幼かったオズさんを抱いて一緒に逃げた。リョウタロウさんの話が本当なら、オズさんも愛情を知らず育った筈だ。しかも、彼は国王と使用人との間に生まれた子ども。国王はオズさんを嫌っていたし、第二王子と第三王子も他の者達も彼を厄介者扱いしていた。

 そんな時にソウタさんに助けられて無償の愛を注がれたら、当然オズさんはソウタさんの事を好きになる。「愛情いっぱい注いで育ててくれた」ってオズさんが優しい顔をして言ってたから、ソウタさんがオズさんをとても大切にしているのが物凄く伝わってくる。

「羨ましかったんだよ。颯太から無償の愛を注がれるオズがな」

「え?」

「もっと分かりやすく言うと、颯太に愛されたかったんだよ」

「あいされ、たかった? ソウタさんに?」

「この世界では神子を大袈裟なくらい神聖視しているからな。その神子から愛情を注がれるだけでも光栄な事らしい。神子に選ばれて結婚となれば、それはこの世界で最高位の名誉なんだと。神子に関する書物を読むと、どの神子も心から愛する人と結ばれて可愛い子どもにも恵まれて幸せな日々を送ったと記されている。そして、神子と結ばれた者も同様に幸せで、神子が居た国はずっと平和で天候や作物にも恵まれていた。まあ、俺達は異世界人ってだけで実際天候を操る力なんてねえし、豊穣の神でもねえ。神子達がこの世界にない技術を多くの人に教えて、その土地に合った作物を植えたり、治水工事をしたりして国が栄えただけだと俺は考えているけどな」

「だから、みんな神子と結婚したかったの?」

 アーノルドさんを見上げると「本当だ」と言った。俺達が持っている知識は多くの人々を救う宝庫らしい。俺はそんな専門知識なんてないし、誰かを救えるような技術もない。でも、歴代の神子の中には、農家出身の人とか、機械に強い人とか、建築関連の仕事をしていた人とか、お医者さんとか、専門知識がある人やプロの人が居たんじゃないかと思う。いくら神子の知識が宝庫とは言え、それだけで国が栄えるとは思えない。リョウタロウさんも同じ事を考えていたらしく「神子の中に専門家やプロが居たんだろう」と呟いた。

「俺達が無条件でこの世界の連中から感謝されるのは、歴代の神子達が築き上げた功績のお陰でもある。だが、今回はそれが悪い意味で作用しちまった。奴らは愛情を知らずに育った。家庭内は冷え切っていて、子ども達も後継者争いに巻き込まれて常に相手を疑う日々。それが当たり前だと諦めていても、誰かから愛されたいって言う思いを完全に消し去るなんて不可能だ。愛に飢え、愛を渇望していた時に、オズに無償の愛を注ぐ颯太を見たらどう思う?」

「自分も、愛されたい?」

「正解だ。オズが愛されるなら自分達だって愛されて当然だとでも思ったんだろう。態々国の端にある田舎まで行ってオズと颯太を連れ戻すなんて普通じゃ考えられねえよ。オズに向ける優しい表情を向けられたかったんじゃねえの? 優しく笑って、頭を撫でてもらって、抱きしめてもらって、甘えたかったんだよ。だが、奴らはオズを人質にして颯太に無理矢理言う事を聞かせていたから当然無償の愛なんて貰えねえし、酷くすればする程颯太はオズの事ばかり心配してオズを求める。それが気に入らなくて更に酷い事をする。悪循環の完成って訳だ」

 餓鬼かよ、と吐き捨ててリョウタロウさんは鼻で笑った。

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あきゅろす。
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