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くっころ騎士団長様を救出せよ!《完結》
5
 俺とアーノルドさんのやり取りを微笑ましそうに眺めた後、エヴァリーナさんは冷え切った目を国王達に向けた。本当に同一人物なのかと思うくらい怖い顔をしているのは気のせい?

「まだ生きていたのですね。其処に居るガラクタ諸共くたばってしまえば良かったものを」

「え?」

「エヴァリーナ! 何だ!? その口の聞き方は! 実の父に対して無礼ではないか!」

「やっと帰って来たと思ったら、また生意気になりましたね。自分の立場と言うものをまるで分かっていない」

「自分の役目も忘れて逃げた恥さらしが今更何の用だ?」

「恥さらし、ですか。その言葉、そっくりそのままお返しします。このような下品な魔物と同じ血が流れていると思うと虫酸が走ります」

「貴様!」

 王女様、強い。相手は自分の父親でしかも国王なのに、全く物怖じせず反論してる。と言うか王族が使っちゃいけない言葉でディスりまくっているけど、大丈夫なんだろうか。国王、本気で怒ってるし、第二王子と第三王子も顔が引きつってるし、周囲に居る貴族達も小声でヒソヒソと話してる。

「おいおい。可愛い娘が帰って来たにも関わらず、最初に言う台詞がそれか? そんなんだから優秀な娘に見捨てられるんだよ。老いぼれは老いぼれらしく、とっとと引退しやがれ」

「な!」

「はは! 違いねえ! 一体何を勘違いしてんのか知らねえが、俺達が同盟を結ぶのはテメエらじゃねえ。今此処に居るリナ達と同盟を結ぶんだ」

「なんだと!?」

「当然だろ? テメエらみてえな心が腐り果てた連中にうちのもんを任せられる訳がねえ。リナはたった一人で獣の国に乗り込んで来たんだぜ? 煮るなり焼くなり好きにしろと言って、自分の知らない神子に関する情報を教えてほしいと頭を下げてな」

「獣の国は人間を憎んでいる者も多い。リョウタロウは受け入れられたが、それでも全ての人間を許せる獣人は少ない。人間を敵視する国に護衛も付けず、一人でやってきて自分の身を捧げるなんざ自殺行為だ。それも覚悟の上だったんだろう。その覚悟と度胸を認めて、特別に獣の国での滞在を許してやったんだ」

「最初は喰い殺そうとしてたじゃねえか! こんのバカ犬が!」

「ギャン!」

 エヴァリーナさんは殺される事も知った上で獣の国にたった一人で向かった。オズさんやアーノルドさん達に言ったら止められると思って黙っていたらしい。案の定、事実を知った二人はエヴァリーナさんに「何故そのような危険な事をしたのですか!?」と顔面蒼白である。そんな二人に優しく笑って彼女は「これしか方法がなかったんです」と告げた。

「どんなものからも神子様をお守りする方法が獣の国にあると、噂で聞いたんです。その方法さえ分かれば、ソウタ様を助けられると、思ったんです。ソウタ様だけでなく、これからこの世界に来てくださる神子様達も守れるかもしれないと思って……」

「だからって、自分を犠牲にしすぎです。エヴァリーナさんは可愛い女の子なんだから、もっと自分を大切にしてください」

「それはテメエにも言える事なんだがな。チビ」

「う」

 確かに、リョウタロウさんの言う通りだけど。俺は男だから傷が残っても別に気にはならない。でも、エヴァリーナさんは可愛い女の子だ。男女差別って訳じゃないけど、やっぱり女の子には無理してほしくないし、怪我もしてほしくない。みんなエヴァリーナさんの事を心配していたし、彼女にもしもの事があったらオズさんやソウタさんは絶対悲しむ。アーノルドさんもレナードさんも、彼女を守れなかった事を一生後悔していたかもしれない。

「神子様は、みんな優しいですね」

「え?」

「ソウタ様とリョウタロウ様からも、同じ事を言われました。もっと自分を大切にしろ、と」

 それはそうだろう。価値観が違っていて当たり前だけど、女性や幼い子ども達が理不尽な扱いを受けているのを見るのは耐えられない。何もできないかもしれないけど、助けたいし、可能なら守りたいと思う。ちょっと感動する場面で「団長、顔がだらしなく緩んでますよ」と言うレナードさんの呟きは敢えて聞こえなかった事にしよう。頭上から「俺のエイトがこんなにも可愛くて優しくて尊い」と、最推しの尊い姿を見て悶え死ぬファンみたいな事をアーノルドさんが言ってるけど、これも無視だ。さっきまでシリアスな展開だったよね? 急にギャグにならないで? 温度差で死ぬから。

「この問題が解決したらどのみち説教だ。オズも颯太もかなり怒ってたから今の内にリナは覚悟しておけ」

「勿論です。ですから先に、目障りな魔物を退治しましょう。リョウタロウ様」

 軌道修正ありがとうございます。お二方。レナードさんとアーノルドさんの反応には一切触れないんですね。更にぎゅうぎゅう抱きしめられて苦しいけど、アーノルドさんに愛されてるって感じられるから抵抗できない。ぅう。恥ずかしい。

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あきゅろす。
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