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くっころ騎士団長様を救出せよ!《完結》
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 国王達は狼狽えていたが、リョウタロウさんの姿を見て下卑た笑みを浮かべた。にやにやと笑いながらゆっくり立ち上がり、リョウタロウさんの目の前まで歩み寄る。

「同盟を結びたいのなら、それ相応の対価をもらわねばな。そうだな。お前が私のものになると言うなら、考えてやろう」

 獣の国の王が居る前で堂々と番を寄越せと言うのはあまりにも非常識だ。リョウタロウさんは獣の国の王妃と言う立場の人だ。シロガネさんとリョウタロウさんを侮辱する行為だ。それが分かっていないのか、第二王子と第三王子も国王に便乗して「独り占めはナシですよ」とか「あちらの神子の方が好みですが、彼も中々」と値踏みしている。アーノルドさんが俺を隠すように抱きしめた。そっと顔を上げると、アーノルドさんは全く感情のない顔をして国王達を見据えていた。レナードさんは殺気と敵意を隠す事なく曝け出して「人間のクズどもめ」と罵っている。

「ふぅん。いいぜ? なってやるよ」

「ほぉう? 随分と聞き分けが良いではないか。もっと抵抗するのかと思ったが。まあ、良い。ならば早速……」

 国王がリョウタロウさんの顎を掴んで上を向かせて口付けようとした瞬間、バチィ! と静電気のような音がしたと思ったら、国王は遠くに弾き飛ばされていた。アーノルドさんとレナードさんは何が起こったのか分からず目をパチクリさせ、周囲の人達も驚いて固まっている。静かな空間にシロガネさんの笑い声だけが響いた。

「話は最後まで聞けよ。変態野郎。俺を襲えるなら、テメエのものになっても良いって言ったんだよ」

「リョウタロウは俺の番だ。番持ちの神子に手を出せる訳ねえだろ? それなのに、この馬鹿ときたら……プックク!」

「番持ち?」

「なんだ? チビ。掟を知らねえのか?」

「掟って、えっと、結婚した神子には手を出せないって言う?」

 恐る恐る聞くと、リョウタロウさんは「なんだ。ちゃんと知ってんじゃねえか」と言って笑った。結婚した神子に少しでも不埒な思いを抱いている者は触れる事ができない。神子を無理矢理手に入れようとしたり、襲おうとしたりすると自動的に弾き飛ばされる仕組みになっているらしい。俺を拘束していた神官が弾き飛ばされたのも、掟で守られていたから。俺はアーノルドさんと結婚しているから、国王や神官達の思い通りにはならない。だから自害する必要はなかったんだと、リョウタロウさんが教えてくれた。

「逆を言えば、心から神子を心配している者や家族だと思っている者なら触れても何も起こらん。弾き飛ばされるのは、神子を辱めようとする輩のみ。リョウタロウがお前に触れても何も起こらなかったのは心から心配していたからだ。しかし、一国の王がこんな愚行をするとは思わなかったぜ。随分と腐敗したもんだ」

「颯太を性欲処理の道具にしてた奴らがまともな訳ねえだろ? こんな変態野郎がオズとリナの父親って言うのが信じられねえぜ」

「ソウタと言う神子の教育が行き届いている証拠だろう」

「本当にな。だから、気に入らねえんだよ。俺達異世界人をまるで道具か玩具のように扱う連中がな」

 リョウタロウさんの言う事は最もだ。この世界では神子と呼ばれているが、俺達は普通の人間と変わらない。魔法は使えないし、チート能力がある訳でもない。稀にそう言う能力が開花する人も居るみたいだけど、異世界人のほとんどはこの世界にない知識や技術、考え方を持っているだけの普通の人間。帰る場所もなければ、頼れる人も居ない。不安と孤独を抱えて戸惑う人を、更に追い詰めるような事を国王達がするなんて絶対に許してはならない。

「リョウタロウ様の言う通りです。我が身内がここまで愚かだとは思いませんでした」

 カツ、カツ、と靴音を響かせながら現れたのは、ふんわりとした長い金色の髪に青い瞳をした可愛らしい女の子。薄水色の清楚なドレスを纏った彼女を視界に入れた瞬間、アーノルドさんとレナードさんが同時に叫んだ。

「エヴァリーナ王女!」

「エヴァリーナ様、無事だったんですね! 良かった。本当に、本当に良かった、です」

「アーノルドさん、レナードさん。突然姿を消して申し訳ありませんでした」

「いいえ。王女にも何か理由があったのでしょう」

「エヴァリーナ様が無事なら、もうなんでも良いです!」

 二人に労りの言葉をかけた後、エヴァリーナさんはアーノルドさんの腕の中に居る俺を見てふわりと柔らかな笑みを浮かべた。うん。可愛い。アーノルドさんと結婚してなかったら、一瞬で虜になっていたと思う。それくらい可愛い。

「初めまして。エイト様。エヴァリーナ・グランディエと申します。オズお兄様からお話は聞きました。私とオズお兄様の恩人であるソウタ様を助けていただいた事、心より感謝申し上げます」

 美しい所作で頭を下げる彼女に、俺は慌てて「頭を上げてください!」と言った。感謝されるような事は何もしていない。だって俺は涙を提供しただけ。本当に効果があったかなんて分からないし、オズさんの治療薬が万能だった可能性の方が高い。それを伝えると何故か笑われて「神子様は本当に優しい方ばかりですね」と言われた。優しいのはソウタさんとリョウタロウさんだけでは? と思っていたのがバレたのか、アーノルドさんに「君は優しい子だよ」と褒められた。ぅう。恥ずかしい。急にそう言う事を言わないで。もっと好きになっちゃうから。

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