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くっころ騎士団長様を救出せよ!《完結》
6
 目が覚めたら別世界でした。いや、違うな。別の部屋だったって言うべきか。え? どこなの? 此処。窓から見える景色は建物が並ぶ風景ではなく木、木、木。見事に木ばかりですな。森の中かな?

「目覚めたか。単刀直入に言う。お前の精液を寄越せ」

「はい?」

「安心しろ。直ぐに終わる。だから大人しくしてろ」

「いや、あの。聞き間違いかな? さっき精液って聞こえたような?」

「間違っていない。お前の精液がどうしても必要なんだ」

「精液ねえ。はいはい。分かりました。精液ですね。って、なるかアホォオオオオオオ!」

 ゴチン! と鈍い音がしておでこが痛いが我慢した。俺の顔を覗き込んで来る全身布に覆われた男の頭に勢い良く自分の頭をぶつけてやった。俺も痛いが相手も相当痛い筈だ。なあにが「お前の精液を寄越せ」だあ! 完全にド変態野郎じゃねえか!

「何に使う気!? 何の為に必要なの!? なんで俺なの!? どうやって搾り取るの!? 初対面の相手にいきなり精液寄越せとか巫山戯てんのか! このド変態野郎!」

「ぐ。俺は変態じゃない。それと、静かにしろ! 大声で叫ぶな!」

「危機的状況で騒がない奴は居ねえよ! 勝手に拉致して勝手に変態発言して安心しろとか無理だろ!? 不安しかねえよ!」

「暴れるな! 大人しくしろ!」

「いやぁああああああ! 助けて! 誰か助けてぇええええええ!」

「この!」

 ガタン! と大きな何かが倒れる音がした。相手はその音を聞いてピタッと動きが止まる。俺も何事かと思って音のした方を見ると、人が倒れていた。え? 誰? と言うかこの人以外にも住んでたんだ。

「ソウタ!」

 男の人は慌てて倒れた人に駆け寄って優しく抱き起こした。その拍子に布が落ちて男の顔が露わになった。薄暗くても分かる柔らかな金色の髪に、宝石のような透き通った碧い瞳。物凄く顔が整っていて、その姿はまるで御伽噺に出てくる王子様。金髪の男は倒れた人を抱いたまま「怪我はないか?」と「不安にさせたよな」と言って頭を撫でる。大丈夫、と何度も彼に言い聞かせながら。

「……ごしゅじ、ん、さま。ごめ、なさ。いい、こ、で、います、から……おずに、ひどい、こと、しないで。ちゃんと、いうとおり、にする、から。ごほうし、するから……おずは、おずだけは、てを、ださないで」

「出さない。酷い事もしないと約束するから、もうおやすみ。此処は安全だから」

「おず、は?」

「大丈夫。彼も安全な場所に居るから」

「ほん、と、ですか?」

「あぁ。本当だ。だから、ソウタ。今は何も考えずゆっくり休んで」

 抱き起こされた人は安心したのかお礼を言った瞬間眠ってしまった。意識を失った人をそっと抱き上げると、男の人は部屋から出て行ってしまった。気になって男の人の後を追うと、直ぐ隣の部屋のベッドに寝かせているところだった。

「若しかして、その人、神子、ですか?」

 恐る恐る聞くと、男の人は「あぁ」と言った。俺と同じ異世界人だと。名前はソウタ。彼は幼い頃、変態オヤジに襲われていた所をソウタさんに助けられ、沢山の愛情を注いでもらったらしい。一、二年は国の端にある田舎の村で幸せに暮らしていたのだが、突然王族の人達が現れて二人を王宮へ連行したと言う。

 国王は貴族の男を殴った罪を償えと言って罰を与えようとしたが、ソウタさんが彼を庇った。罰を与えるなら自分にしろと。それが地獄の始まりだった。国王はソウタさんを神官に渡して神殿で暮らすよう命じた。全ての罪を償う為に厳しい修行をしろと言ったが、その内容が神官や王族貴族達の性欲処理だった。少しでも抵抗すれば男の人を襲うと脅して、彼らはソウタさんの体を好き勝手弄った。

 彼らの暴虐に耐えきれず、密告する者やソウタさんを逃がそうとしてくれた人も居たが、秘密裏に処分されたり、家族を人質に取られたりして、誰も助けられなかったと言う。そして、男の人が数少ない協力者と共にソウタさんを助けた時には、もう既に心が壊れていた。

「優秀な医者や、手練れの魔術師にも診てもらったが、手に負えないと匙を投げられてしまったんだ。ソウタの魂は半分向こうの世界に行っている。下手に手を出せば魂そのものが壊れて二度と戻って来ないと言われたんだ」

「えっと、ソウタさんを正気に戻す為にどうしても必要なのが俺の精液って事ですか?」

「正確に言えば神子の体液だ。この世界の者と交わった事のない神子の体液なら、救う事が出来るかもしれないと」

「それで俺の精液が欲しかったんですね」

「あぁ。そうだ」

 苦しい表情をして彼は「勝手な事をして済まない」と頭を下げた。奴らのような最低な人間にはならないと思いながら、同じ事をしようとしていたと。男の人はもう一度謝って「お願いだ。ソウタを、助けてくれ」と俺に懇願した。

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あきゅろす。
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