[通常モード] [URL送信]

くっころ騎士団長様を救出せよ!《完結》
5
 俺はアーノルドさんのお屋敷で過ごす事になった。国王や神官に俺の存在がバレるとやっぱりダメらしい。神殿で厳重に管理されて自由もない。毎日毎日神に祈りを捧げ、愛を求める者達に平等の愛を注がないといけないとか。絶対嘘だろ。愛とか言ってるけど、注ぐのはアレだろ? 自分の欲と言う名の液体。うげえ、気持ち悪い。吐き気がしそう。

「俺は国王に報告しなければならないから数日は帰って来ない。食材はかなり多く買い込んでいるから好きなものを食べてくれ。だが、この屋敷の外には絶対に出てはいけないよ」

「分かりました」

「君は俺が必ず守る。何があってもだ」

「大袈裟では?」

「それだけ、俺にとって君は大切な存在だと言う事だ」

「え?」

「それじゃあ、行ってくる」

「あ、はい。行ってらっしゃい?」

 思わず条件反射で挨拶をすると、アーノルドさんは一瞬目をパチクリさせた後、蕩けるような笑みを浮かべて「行ってきます」と言って王宮へ向かった。イケメンは何をしてもイケメンですな。一瞬ドキッとしてしまったよ。いかんいかん。俺は女の子が好きなんだ。いくらアーノルドさんが美人で綺麗な人でも彼は男。しかし、デコチューする必要あった? ないよね? それがこの世界での挨拶なの? スキンシップが激しいな。日本が恋しいぜ。ぐすん。

 アーノルドさんが居ない間に今迄の事を整理しよう。此処は間違いなく異世界で、夢ではなく現実。時代は中世ヨーロッパに似ていて、服装や建物も西洋っぽい。髪と目の色もカラフルで、多分黒髪黒目はこの世界では珍しい。それが異世界人だと証明しているようにも思う。

 異世界人はこの世界では神子と呼ばれていて、本来なら大切にされる存在だ。しかし、王族の中には神子を使い勝手の良い消耗品とか、自分の欲を満たす為の操り人形程度にしか思っていない輩が居る。アーノルドさん達が言っていた前の神子は悪い人達に捕まって性欲処理の道具にされて、完全に心を壊してしまった。その後も、彼らが乱暴に扱って神子は命を落とす。殺されたも同然だ。

 神子の死を悲しんだのはこの国の第一王子であるオズワルドと言う人と、アーノルドさんを騎士団長に任命したエヴァリーナ王女。オズワルドは神子を心から愛していて、エヴァリーナ王女も神子を心から慕っていた。大好きな神子が亡くなった翌日、二人は忽然と姿を消したらしい。

 二人にずっと不満を抱いていた人達は、責務を放棄して逃げ出した卑怯者だと愚弄。中には神子の後を追って二人は自殺したと言う者も居た。しかし、アーノルドさんとレナードさんが言うには、二人は自ら命を絶つような事は絶対にしないとの事。

 そこから導き出される答えは、三人とも何処かでひっそりと生きている、と言う事。恐らく、死刑囚の死体を用意して神子が死んだように見せかけたのだろう。本物の神子はオズワルドとエヴァリーナ王女が連れ去って、誰にも見付からない場所でひっそりと暮らしているのかもしれない。でも、助けるのが遅過ぎて神子の心は既に壊れている。きっと、何とかして正気に戻したいと思っているに違いない。その方法は分からないけど、何処かでまた姿を現すとは思う。

「これからどうしよう」

 今はアーノルドさんのお屋敷でお世話になっているけど、ずっと此処に居る訳にはいかない。何処かで働き口を探して、一人で生きていけるようにしなければ……

 でも、王族とか神官に捕まるのは絶対に嫌だ。俺が「あんあんらめえ!」展開になるのだけは何としてでも避けたい。何で平凡な俺がハート飛ばしながら喘がなきゃならねんだよ! 誰も喜ばねえよ!

「取り敢えず、寝よ」

 色々あり過ぎて疲れた。難しい事はまた今度考えよう。そう思って俺はアーノルドさんから与えられた部屋に行って、ふっかふかのベッドにダイブした。触り心地が良くて、直ぐに眠くなって俺は夢の世界に旅立った。

[←前][次→]

5/20ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!