人を愛した魔族達《完結》
3
「遅かったですね。陛下」
「あぁ」
「人間共が神子を召喚した噂は本当だったんですか?」
「あぁ」
「となれば、近い未来に人間共が此所へ攻め込むかもしれませんね」
「あぁ」
「人間如きに手子摺るとは思っておりませんが、人間のする事は何処迄も醜いですからね。用心するに越した事は無いですよ」
「あぁ」
「陛下?」
「あぁ」
「陛下? 聞いておられるのですか?」
「………………………」
「陛下!」
「リューイ」
「はい」
「花嫁を迎え入れる。準備をして置け」
「!?」
陛下の言葉に、リューイと呼ばれた男は驚き目を見開く。冗談で言っている訳ではない。彼は本当に花嫁を迎える気なのだ。彼の表情や態度を見ればそれは一目瞭然で。
だからこそリューイは驚いた。陛下と呼ばれた男は、何に対しても無関心で、花嫁に等一切の興味を示さなかった。他の者達が何度か『花嫁は如何なさいますか?』と伺った事があったが、全て『興味無い』と言い捨てていた。
そんな男の口から、はっきりと『花嫁を迎え入れる』と言われれば、誰だって驚く事だろう。それ程迄に、この男は何に対しても無関心なのだ。
「花嫁……ですか……唐突ですね。そのご様子だと、花嫁となる者は既に決めておられるのですね」
「あぁ」
「そうですか。それで、相手は誰なんです?」
「人間だ」
「は?」
リューイは再び驚き、男を凝視する。男の『人間』と言う言葉に、リューイは信じられないと言いたそうな顔をする。花嫁を迎え入れると言う発言だけでも衝撃的なのに、その花嫁が誰かと問えば『人間』だと言う。
「人間は嫌いでは無かったのですか?」
「人間は皆耳障りで鬱陶しいに決まっているだろう」
「ならば何故……」
「だが、あの人間は違う」
「…………」
「あの人間は、俺の花嫁だ」
そう断言し、柔らかな表情をする。今迄ずっと無表情で不機嫌そうにしていた男が、此所迄表情を崩す姿を見るのは子供の頃から一緒にいたリューイでさえもこれが初めてだった。
陛下は本気で人間を花嫁として迎え入れる気だと、リューイは思った。この男の表情を此所迄崩させる相手に、リューイは興味を抱いた。相手が人間ならば尚更に……
「貴方のする事に五月蝿く言う気はありませんが、人間を陛下の花嫁に迎える事を、他の者達が納得するのでしょうか」
此所には人間を嫌悪する者も数多く存在する。住処を奪われた者。家族を殺された者。捕らえられ玩具にされた者。
人間に対し興味も無ければ敵意も無い者も確かに存在するが、此所にいる者達は人間に対して何かしら深い恨みを持った者がほとんどである。だからこそ、リューイは念の為、彼等を統べる男に対して、釘を刺した。
「愚問だ。直ぐに気に入る」
「で、ですが…相手は人間……」
「会えば分かる。俺のする事に口出しする輩は根刮ぎ排除するだけだ」
「…………」
ダークグレイの瞳に仄暗い闇が垣間見え、リューイは戦慄し、体を強張らせた。この男は有限実行。言った事は必ず行動に移す。相手が誰であろうと、文句を言う輩は全て排除し、自分に従う者しか護らない。
「魔王であるこの俺に異見すると言う事は、死を覚悟していると言う意と同意だ」
冷酷で残虐。しかし、鋭く冷たい雰囲気を醸し出す魔王の姿は、誰が見ても「美しい」と見惚れる程美麗なものだった。
可哀想に……
陛下に此所迄気に入られた人間は、二度と彼から逃げ出す事は出来ないだろう。捕らえられたが最後、永遠にこの男に囚われ、意思等関係無く、骨の髄迄侵されて行くのだろうと思うと、リューイは彼に気に入られた人間に同情した。
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