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人を愛した魔族達《完結》
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「暮羽! 皆を騙す何て最低だ! ちゃんと謝れよ!」

「愛輝、これで分かっただろ? コイツは俺達に近付く為に優しいお前を利用したんだ」

「最低ですよね。愛輝の優しさに付け込んで、親友のフリをする何て……」

「愛輝ちゃん、もうこんな最低な人間とは関わらないで?ボクが居れば十分じゃん?」

「で、でも、それじゃあ、暮羽が可哀想だ! 暮羽は俺の親友だ! 俺が居なくなれば、暮羽は友達が居なくなっちゃうだろ! 友達が居ないなんて、暮羽が可哀想だ!」

「愛輝」

「愛輝は優し過ぎるんです。愛輝は騙されていたんですよ? それなのに………」

「そうだぜ、愛輝。こんな最低な人間何か放って置けよ。愛輝には俺が居れば良いじゃねーか」

「そ、そんな、仲間外れは、駄目、何だからな! そ、それに! 俺は皆と仲良くなりたいんだ!」

「「「愛輝……」」」

 うっとりと愛輝と呼ばれた少年を見詰める生徒会役員。愛輝を盲目的に慕う彼等は愛輝の事を純真無垢で心優しい少年だと思い込んでいた。

 誰が相手であろうとも物怖じしない態度が、役職や立場等一切気にせず対等に接してくれる姿が、愛輝の全てが愛おしいと、生徒会役員達は彼を妄信的に慕っている。

 生徒会役員達に囲まれ、「優しい」「可愛い」「愛らしい」と口々に言われ、彼は口では否定するものの、頬を赤く染め、嬉しそうにしていた。

 この場面だけ見れば、少女漫画のような甘ったるい空気なのかもしれないが、その場にはもう1人居た。

 先程迄生徒会役員達にまともに立つ事すら侭ならない程殴られ、蹴られ、制服はボロボロで、意識を保つのがギリギリ、その生徒の姿は酷い有様だった。

 直ぐにでも治療を受けなければならない程痛めつけられている生徒を他所に、生徒会役員達も愛輝と呼ばれた少年も、彼の事等見向きもしない。大事な『親友』が傷だらけで、動く事すら出来ない状況に迄追い込まれていると言うのに、愛輝は『親友』には一切目を向けず、生徒会役員達と楽しそうに話して笑っている。

「暮羽! 何時迄其処で寝てんだよ!? そんな所で寝たら汚いだろう! 早く立てよ!」

 漸く終わったのか、愛輝が彼に気付き声を掛けるが、彼の言葉は傷だらけの『親友』に対して言う台詞には到底思えない程、辛辣なものだった。

 暮羽は寝たくて寝ている訳では無い。毎日繰り返される暴力と、先程迄理不尽な理由で痛めつけられたせいで、起き上がりたくても起き上がれない。その事を伝えようと声を出そうとしても、口からは空気の抜ける音しか出ず、声を発する事も出来ない。

「何やってんだよ! さっさと起きろよ! 皆行っちゃうぞ!」

さっさと行って欲しい。

 暮羽は心の中でそう思った。自由に動かす事の出来ない体。散々痛めつけた人達とずっと一緒にいたいと思う人間はいない。そもそも、暮羽がこの理不尽な暴力を受けているのは愛輝のせいだと言うのに、当の本人はそれにすら気付いていない。

 生徒会役員達は皆、暮羽を睨みつけ、「トロい」「のろま」「役立たず」と罵っている。誰も暮羽の怪我等気にも留めない。もし、この怪我が原因で暮羽が命を落としたとしても、きっと彼等は権力を使って都合の良いように書き換えるに違いない。朦朧とする意識の中、暮羽はそう思った。

 彼等に助けを求める気等、暮羽には最初から無かった。寮の同室者となっただけで『親友だ』と喚かれ付き纏われ、行きたくもない生徒会室に無理矢理引き摺られ、関わりたくもない生徒会役員達と関わって、愛輝が『親友』だと口にする度に、愛輝に連れ回される度に、暮羽は生徒会役員達に睨まれ、敵意を向けられた。

 些細な嫌がらせから始まり、教材や私物を盗まれボロボロに引き裂かれ、親衛隊に迄敵視され、理不尽な仕打ちはどんどんエスカレートして行き、毎日毎日殴られ蹴られが当たり前の日常に変わってしまった。

 これだけ痛め付けられていても、こんなに辛い思いをしていても、愛輝は暮羽の怪我にも気付かない。まともに歩ける状態ではないと言うのに、そんな暮羽を無理矢理連れ回し、途中で転べば非難され、そして生徒会役員や親衛隊の怒りを買い、また暴力を振るわれる。

 毎日毎日その繰り返しで、暮羽の体はもう限界ギリギリの所迄追い詰められていた。そんな状態になっても、愛輝は暮羽の傷には気付かない。

「おい! 早く起きろって!」

「いい加減にしろよ! 何時迄も愛輝を待たすんじゃ無ぇよ! このクズが!」

 ドゴッ、と言う音と共に腹部に激しい痛みを感じ、暮羽は声を上げる事も出来ず、地面を転がる。しかし、転がった場所が悪かった。

 暮羽が転がった場所に、冷たいコンクリートの感触は無かった。霞んだ視界で生徒会役員達が顔を真っ青にしている姿を最後に、暮羽の体は下へと落ちて行く。

あぁ、俺……死ぬんだ……

 愛輝に無理矢理連れ回され、理不尽な理由で敵視され、殴られて、散々痛めつけられて、最後は屋上から突き落とされる何て……

本当は、誰かに助けて欲しかった。

 誰かに『助けて』と言いたかった。でも、言えなかった。言った所で、誰も助けてくれない。

死にたく、ない、なぁ……

 そう心の中では思うものの、暮羽にはどうする事も出来ず…
ただ、涙を流す事しか出来なかった。

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あきゅろす。
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