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人を愛した魔族達《完結》
15
「無理を言ってしまって申し訳有りません」

「…………」

 申し訳無く思うのなら、態々俺を案内役にしないで欲しい。琥之羽は心の中でそう愚痴った。言葉と笑顔で上手い事周囲を丸め込み、ルイスは琥之羽を案内役に選ぶ事が出来た。

 心の中では嫌だと思いながら、琥之羽は渋々ルイスを案内する。練習場、医務室、執務室、王室、食堂、一通り案内を終えた頃には既に日が暮れかけていた。

 人気の無い庭園をルイスと2人歩いている時、琥之羽はふと夕日を見る。オレンジ色に淡く染まる世界。昼が夜に変わる時。夕日を見る度に、琥之羽は暮羽を思い出す。温かいオレンジの光。ゆらゆらと揺れる夕日。淡く温かい光なのに、どこか切ない気持ちにさせる時間。

 この時間が、琥之羽は昔から大好きだった。この時だけは、ちゃんと暮羽の事を思い出す事が出来るから。家族を思い出す事が出来るから。戻る事は叶わなくても、会う事は叶わなくても、思い出す事だけは出来るから。一番幸せだった時を思い出して、琥之羽はルイスが居る事も忘れ、夕日を眺め続け、そして優しく静かに微笑んだ。

「っ」

 夕日を眺め静かに微笑む琥之羽を見、ルイスは息を呑んだ。今迄一度も表情を見せた事が無かった琥之羽が、初めて表情を見せたからと言うのもある。

 しかし、ルイスが一番動揺したのは、静かに微笑む琥之羽があまりにも美しかったから。とても温かく優しい表情なのに、どこか諦めと悲しみが入り交じった切なさを含む表情に、ルイスは咄嗟に琥之羽の腕を掴み、自分の方へ引き寄せて強く抱き締めた。

「え?」

 突然の事で、琥之羽は自分の身に何が起こったのか理解する事が出来なかった。夕日を眺めていた時、突然腕を引かれ、何か温かいものに包まれている感覚がして、気が付いた時にはルイスに強く抱き締められている状態だった。

 急に抱き締められ、琥之羽は困惑した。こう言う状況に陥った場合、どうすれば良いのか分からない。誰かに抱き締められた事何て、今迄家族以外では無かったし、そう言った行動を取られる事は今迄無かった。

 嫌われる事が当然で、邪魔者扱いされる事が当然で、味方なんて誰もいないと思っていた。琥之羽は今でもそう思っている。自分を守れるのは自分だけ。信じられるのも自分だけ。

『お主を大事にしてくれる人が必ず現れる』

 不意に老人に言われた言葉が琥之羽の脳裏を過り、直ぐさまそれを否定する。

そんな事有る訳ない。

そんな都合の良い話が有る訳ない。

この人だってきっと、何か考えが有って近付いているに違いない。

何かを探る為か、利用する為か。

 今迄琥之羽に近付いて来た人物は必ず何か裏が有って近付いて来た。何時も何時も邪魔者扱いされ、理不尽な理由で責め立てられ、助けを求めても味方等誰もいなくて、嫌な事ばかりだった。

 弟を護る事さえ出来ないのに、存在して良いのかと思う程に、琥之羽は他人よりも自分自身を嫌悪し、忌み嫌っていた。

 ルイスから距離を取りたくて、逃げようとする琥之羽の腕を掴み、ルイスは琥之羽の唇に自分のものを押し当てた。

「っ!?」

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