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人を愛した魔族達《完結》
13
 神子がこの世界へ来て1ヶ月経った頃、突然魔王が国王の城を襲撃した。氷のように冷たい視線を向け「花嫁を迎えに来た」と国王達に静かに告げる。

 最初は神子の事を言ってると思った。あぁ、魔王さえも、この存在の虜になるのか、と。しかし、魔王は表情1つ変えず、神子に絡まれると少しだけ顔を歪め、嫌悪感を見せた。

 国王達が戦闘態勢に入ろうとした時、魔王の従者らしき人物が何かを大事そうに抱き抱えた儘現れた。彼等の会話から腕の中にいる「誰か」が魔王の言う「本当の花嫁」なのだろう。

 それが弟ならどんなに良いだろう。あんなにも柔らかく優しい表情を向けられている「誰か」が弟だったなら、きっともう辛い思いはしないだろう。魔王が必ず守ってくれる。きっと幸せにしてくれる。

 そう願っていると、魔王の腕の中の「誰か」を一瞬だけ見る事が出来た。全てを見る事は出来なかったが、魔王の腕の中の誰かの頭らしき部分が見え、髪の色が黒かったのを見て、琥之羽は心の底から魔王に感謝した。

 魔王が暮羽を連れ去ってから暫く経つと、再び神子が喚き出し「暮羽を助けに行く」と言い出した。国王達は口々に暮羽を悪く言い、必死に神子を止めようとするが、神子は言う事を聞かず、「助けに行く」と騒ぎ続ける。

 その様子を軽蔑し切った目で眺め、琥之羽は自分にかけている魔法を解き、本来の姿で神子達の前に出る。

「辞めておけ」

 琥之羽は静かに告げた。突然の事で国王達は目を見開き、次には琥之羽を罵った。

 琥之羽と暮羽は外見も内面もとても良く似た兄弟だった。内気な所も、妙な所で頑固な所も、本当は寂しがり屋で泣き虫な所も、とても優しい所も……

 琥之羽は暮羽が大好きで、暮羽も琥之羽が大好きだった。一緒に住んでいた時は何時も2人は一緒だった。とは言え、暮羽はまだ幼かった為、暮羽が琥之羽の事を覚えているかは分からない。

 暮羽に取っては、琥之羽の存在を忘れたまま生きている方が幸せかもしれないと思いつつ、愛情劇を繰り広げる国王達に視線を向け口を開く。

「これは忠告だ。もう二度と、雛方暮羽に手を出すな」

 そう言って琥之羽は魔法で国王達の視線を遮り、その間に外見を変え、その場から立ち去った。






「今日から貴方達の指導を任されました、ルイスと申します。宜しくお願いします」

 国王達に忠告をした日から数日後、琥之羽達の元に新しい上司が訪れた。

 肩位の長さの淡い青い髪。宝石かと見間違う程綺麗に澄んだ青い瞳。身に付けている眼鏡を上げる些細な仕草でも見惚れてしまう程、新しい上司は驚く程顔が整っていた。ルイスが優しく微笑むと、周りの人達は一斉に顔を赤くした。

綺麗、格好良い、素敵、等々……

 誰もが新しい上司に見とれる中、琥之羽だけは無表情のまま新しい上司となる人物を静かに眺めていた。

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