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人を愛した魔族達《完結》
11
「辞めておけ」

 静かになった広間に、その声はよく響き渡った。今迄大きな声を発していた愛輝も黙り込み、声のした方へ視線を向ける。其処には、黒い髪に黒い目をした、雛方暮羽によく似た人物が静かに佇んでいた。

「暮羽っ!? お前、魔王に攫われたんじゃなかったのかっ!?」

 いち早く復活した愛輝は暮羽にそっくりな人物に飛びつき、興奮したように質問する。彼は表情を崩さず、「俺は暮羽じゃない」と告げた。しかし、愛輝達は納得せず、目の前の人物を雛方暮羽だと決めつけ、口々に彼を罵った。

見え透いた嘘を吐くな

不幸を齎す忌み子風情が

とうとう魔王に迄媚を売ったか

穢らわしい……

 彼等は口々に暮羽に似た男を罵り続けた。そんな中、愛輝が何時ものように「暮羽の事を悪く言う何て最低だっ! 友達は大切にしないと駄目なんだぞっ!」と綺麗事じみた事を言う。国王達はうっとりとした表情をして愛輝を褒め讃える。

何て優しいんだ

貴方はやはり私達の神子です

流石、愛輝だな。こんな忌み子に迄優しくする何て……

 等々。彼等はだらしない顔をした儘愛輝を褒め倒し、愛輝はそんな彼等の態度に心底満足しているような表情をしている。暮羽に似た人物の存在は無視して……

 暮羽に良く似た人物は表情1つ変えず目の前で繰り広げられる愛情劇を傍観し続けていた。

「下らない」

 彼は誰にも聞こえない程小さな声で呟いた。冷め切った蔑むような視線を愛輝達に向けたまま……





『琥之羽っ! 俺が誘ってるのに、何で俺の誘いを断るんだよっ! 親友なんだから俺の言う事はちゃんと聞けよなっ!』

『琥之羽はそんなんだから友達が一人も作れないんだ。でもこれからは大丈夫だ。俺が親友になってやったんだからなっ! これで何も心配はいらないぞっ!』

『琥之羽は俺がいなきゃ何も出来ない奴だからなっ! 俺がずっと傍にいてやるっ! 感謝しろよっ!』

『友達を騙す何て最低だっ! 生徒会に近付きたくて俺を利用してた何て……今直ぐ謝れよっ! 今なら許してやるからっ!』

 これは琥之羽がこの世界へ来る前の出来事。彼は元々この世界の人間では無かった。雛方暮羽と同じく、日本に生まれ、平穏な日々を過ごしていた。両親に愛され、可愛い弟の面倒を見ながら、彼はありふれた幸せな日々を送っていた。

 その日常が崩れたのは、琥之羽が全寮制男子校に入学してからだった。金持ちのご子息が入学する学校に入学した為、彼は特待生としてこの学校に入学した。両親や弟の負担にならないように、彼は奨学金が貰える特待生を目指して勉強して入学したのだ。

 元々頭が良く、飲み込みも早い方だったので、勉強も寮生活も何事も無く平和に過ごす事が出来ていた。

 しかし、突然転校して来た転校生のせいで、彼の生活は一変した。季節外れに転校してきた転校生は悪い意味でかなり目立っていた。友達の友達は友達。皆の憧れである生徒会役員全員を虜にし、少しでも自分の思い通りにならなければ子供のように五月蝿く喚き、物に当たる。

 転校生に夢中な彼等はそんな事は一切気にせず、只管彼を口説き倒していた。当事者にさえならなければ、琥之羽も今迄通り、平穏な日々を過ごしていた筈だった。

 不運な事に、琥之羽はその転校生とクラスが同じで隣の席にされてしまった。それが原因で、彼は転校生から一方的に親友扱いされ、無理矢理連れ回され、生徒会にも無理矢理引きずられ続けた。

 転校生が琥之羽を連れ回し親友発言をした事が原因で、琥之羽は学園一の嫌われ者にされてしまった。生徒会役員達からは「俺達に近付きたくて◯◯と一緒に居るんだろ?」と言うような内容の事を言われて殴られ続け、生徒会役員の親衛隊達からは「これ以上、生徒会に近付かないで」と言われ性的暴行を受け続けた。

 痛くて、辛くて、苦しくて、助けて欲しいのに、誰も助けてくれない……

 殴られ、責め立てられ、罵られ、連れ回され、殺意の籠った視線を向け続けられ、琥之羽はもう耐え切れなかった。こんな日々が続く位なら、何時か誰かに殺される位なら、今此所で死んだ方がマシだと……

 そして、琥之羽は屋上から飛び降りて自殺した。誰も居ない場所で、誰も気付かない時間に……

遺書も書かずに、たった1人、誰にも気付かれずに……

心残りが無いと言えば嘘になる。

家族は悲しんでくれるだろうか……

幼い弟は俺を覚えていてくれただろうか……

家族に迷惑ばかりかけてしまう愚息で御免……

俺、もう生きるのが辛いんだ……

 そんな事を思いながら、彼は自分の命を終わらせた。終わらせた筈だった。

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あきゅろす。
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