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人を愛した魔族達《完結》
10
 暮羽が魔王の元に来て数週間が過ぎた。魔王の城へ来て、暮羽の生活は180度変わった。怪我の治療をされ、温かい食事を与えられ、暮羽は少しずつ、ゆっくりと体が回復して行くのを感じていた。

 此所に暮羽を傷付ける者は無い。何時も魔王か彼の従者であるリューイが暮羽の傍に居る為、常に安全な環境で、安心して日々を過ごせている。

「肌の色が良くなったな」

「……っ……」

 そっと、頬に手を添えられ、暮羽は顔を赤くして恥ずかしそうに俯く。しかし、下を向く事を許さないとでも言うように、頬に添えていた手を顎に移動させクイッと暮羽の顔を上へ向けさせる。

「っ!?」

 至近距離で見詰めて来る魔王に、暮羽は恥ずかしさのあまり目を閉じてしまう。魔王は誰が見ても「綺麗」と言う程に容姿端麗。それは、生徒会役員達やこの国の国王達よりも整っていて、あまりにも愛おしそうに見詰めて来るので、暮羽は恥ずかしくて仕方無かった。目を閉じていると、頭上からクスクスと笑い声が聞こえて来る。

「林檎のように顔が赤くなった」

「……か、からかわ……ないで……下さい……」

「からかって等いない。愛おしいと思っただけだ」

「っ!?」

 また赤くなったな。クス、クス、嬉しそうな笑い声。暮羽の頬や頭を優しく撫でる手。驚いて見開いた目には、愛おしそうに自分を見詰める魔王の顔。暮羽は恥ずかし過ぎて涙目になる。

 悲しい訳では無い。辛い訳でも無い。あまりにも幸福過ぎて、困り果てる。今迄ずっと虐げられて来た。ずっと独りで我慢して、ずっと独りで耐えて来た。味方なんて誰1人存在しない世界で、誰も助けてくれない世界を独りで……

 誰からも必要とされていないと、暮羽は本気で思っていた。嫌われる事が当たり前になり過ぎて、優しくされるとどうすれば良いのか分からなくなっていた。ぎこちなく御礼を言いはするものの、それが本当に正しい行動なのか、暮羽には分からない。

「済まない。苛め過ぎてしまったようだな。泣かせたかった訳では無いんだ」

 そう言って魔王は涙を流す暮羽の目尻にキスを落とす。相変わらず、頭を撫でる手つきは優しく、もう片方の手が背中に回されたかと思ったら、優しく抱き寄せられる。

「暮羽……」

 愛おしそうに、優しい声で魔王は暮羽の名を呼ぶ。恥ずかしいのに嬉しい。枯れた大地を雨が潤すように、心が少しずつ満たされて行く。顔を真っ赤にしながら、暮羽はゆっくりと両手を魔王の背に回し、恐る恐る抱き返した。

「…………」

「っ!?」

 暮羽は小さく何かを呟いて、疲れ果てたのか眠ってしまった。魔王は暮羽の言葉に多少驚きつつも、暮羽の体を支え、抱き上げると、優しくベッドに寝かせ、布団を優しく被せた。

「手放せ無いな……」

 最初から手放す気等更々無いが……

 まさか此所迄のめり込むとは魔王も思っていなかった。確かに魔王は暮羽に惹かれてはいた。あの笑顔を見た時から、初めて暮羽と出会った時から、魔王は暮羽が欲しくて欲しくてたまらなかった。

 傷だらけで、体も痩せて、何時死んでも可笑しく無い状況なのに、会いに行く時は何時も笑顔で迎えてくれた。食べ物を与えてくれた。とても心優しい人間なのだろうと魔王は思った。

 だからこそ、魔王は彼を『助けたい』と思った。此所から連れ出して、自分の城へ迎え入れ、其処でドロドロに甘やかして、これでもかと言う程愛情を注いで……彼の心が俺で満たされれば良い、と……

『ありがとう、ござい……ます……俺を…選んで、くれて……』

 頬を赤く染め、恥ずかしそうに小さくそう呟いて、弱々しく抱き返してくる暮羽。愛おしくて仕方無い。暮羽の全てが愛おしい。魔王は暮羽の髪をそっと撫で、彼のおでこに優しくキスをした。

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