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人を愛した魔族達《完結》
9
 魔王が去った後、城内を隈無く捜査し、暮羽の姿が何処にも無い事を愛輝は知った。国王達は魔王の襲撃に遭って不運にも殺されてしまったのでは無いかと噂していたが、愛輝はそう思わなかった。

 消えたにしてもタイミングが良すぎるのだ。魔王が現れた時間と、暮羽が消えた時間はほぼ同時刻。殺されたと言うのであれば、暮羽の死体か、その残骸が何処かにある筈なのだ。しかし、暮羽だと思わせるような死体も無ければ暮羽と関連付ける物も無い。

『花嫁を迎えに来た』

 魔王はそう言った。花嫁。花嫁は愛輝では無かった。本当の花嫁は暮羽の事だったのでは無いか。一瞬、愛輝はそう思うが、直ぐに掻き消した。

 きっと魔王は花嫁を間違えたんだ、と。

 魔王の本当の花嫁は愛輝で、暮羽は人質として連れ去ったのだと。そうで無ければ、自分の引き立て役でしか無い暮羽を態々攫う筈が無い。きっと暮羽を人質に、愛輝を花嫁として寄越せと言って来るに違いない、と。愛輝は本気でそう思っていた。

 愛輝に取って、暮羽は愛輝の良さを引き立てるだけの存在でしか無い。愛輝は暮羽を良いように利用していたのだ。愛輝は暮羽が生徒会や親衛隊達から迫害にも近い苛めに遭っている事を知っていた。毎日怪我をしている事にも気付いていた。この儘行けば、暮羽が死に至る事も、最初から知った上で、それでも暮羽を傍に置いた。

 暮羽を助ける気等愛輝には最初から無かった。ただ、自分を引き立ててくれるから暮羽を傍に置いただけだった為、例え暮羽が死んだとしても、それは全て、皆から嫌われる暮羽が悪いと、本気で思っているのだ。

 だから、この世界に来ても愛輝は暮羽を助けようとはしなかった。『親友』だと言って置きながら、暮羽が牢屋に入れられる時も、愛輝は国王達を止めようとはしなかった。

 誰もが愛輝を愛し、誰もが暮羽を嫌う。それが正しいのだ。それが正しい世界なのだ。暮羽は必要の無い存在。誰からも必要とされない存在。愛輝の傍に居る事でしか生きられない、自分よりも劣る存在だと、愛輝は常に暮羽を見下していた。

 だからこそ、許せない。自分の許可も無く勝手に自分から離れた暮羽を。魔王の寵愛を受ける暮羽を。

 愛輝は認めたく無かった。いいや、認めようとせず、全ては魔王が愛輝を手に入れる為に暮羽を利用しようとしている、と、そう脳内で書き換えた。そう思わなければ、納得出来なかったのだ。そう思いはするものの、苛立ちは消えず、日に日に増して行くばかり。

「何で魔王は俺を迎えに来ないんだよっ! 俺が花嫁の筈だろっ! なのに何でっ!」

 魔王襲撃から数週間経っても、魔族側からの奇襲は一切無く、手紙も来る事は無かった。その現状が愛輝の苛立ちを増幅させる。国王達は『愛輝が無事で良かった』『あの忌み子も消え去った』『これで安心して愛輝と過ごせる』と口々に言うが、愛輝は国王達の言葉を聞いても満足しなかった。

 今、愛輝が欲しいのは魔王。愛輝が望むものは魔王の愛なのだ。魔王だって俺の事を愛している筈だ、だから俺を花嫁として選んだんだ。暮羽を人質にして迄……俺が親友を見捨てられない事を知っていて……

「暮羽を……暮羽を、助けに行く」

「「「「「っ!!?」」」」」

 ふと、そんな言葉が出て来た。そうだ、魔王が迎えに来ないのなら、自分から魔王の元へ訪れれば良いんだと。暮羽は魔王に連れ去られた。人質として。大事な親友の暮羽を助ける為に、魔王の元へ行く。都合の良い口実を作り上げ、愛輝は目を輝かせる。

「あの時、魔王は暮羽を連れて行ったんだっ! 暮羽を人質にして、俺を花嫁にする為にっ! このままじゃ、暮羽が危ないっ! 早く、早く暮羽を助けに行かないとっ! 魔王の所に行かないとっ!」

 国王達は目を見開き、愛輝を見詰める。国王は愛輝の肩を掴み「危険だっ!」と言う。魔導士は「貴方があんな忌み子の為に其処迄する必要は有りませんっ!」と必死に止めようとする。勇者は「幾ら神子である愛輝でも、相手はあの魔王だ……力の差が有りすぎるっ!」と言い聞かせる。騎士団長は「魔王の力は絶大だ。俺達全員で立ち向かっても、勝てるかどうか……」と言葉を濁す。

 それでも、愛輝は彼等の忠告を一切聞かず、「暮羽をこの儘にして置いて良いのかよっ!」と国王達を責め立てる。渋る国王達に痺れを切らし、愛輝は「もう良いっ! 俺一人で行くっ!」と言って城から出て行こうとした。

 国王達はそんな愛輝を必死に止めようとするも、愛輝は彼等の言葉を一切聞かず、本気で一人で魔王の元へ行こうとした。その時……

「辞めておけ」

 見知らぬ声がし、愛輝も国王達もピタリと静まり返り、声のした方へ一斉に視線を向けた。

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