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人を愛した魔族達《完結》
8
 魔王が城を襲撃した日、愛輝は魔王を一目見て『欲しい』と思った。両親から甘やかされ、周りから愛されて来た愛輝は、「自分が一番」「愛されて当然の存在」だと本気で思っていた。現に、美形な男達は例外無く愛輝に心酔し、誰もが愛輝を求めた。

 それはトリップしたこの世界でも変わらず、国王、勇者、騎士団長、魔導士等、権力のある美形達を次々と虜にして行った。愛輝はそれが嬉しくて嬉しくてたまらなかった。心の中では何時も「俺は愛されている」と満足していた。

 雛方暮羽を傍に置きたがったのも、親友だからと言うのは口実で、自分より劣る存在を傍に置き、自分が一番愛されていると言う優越感に浸りたかったのが暮羽を傍に置いた本当の理由だ。

 愛輝が暮羽を気にかければ、周りは暮羽に嫉妬し、理不尽な理由で暮羽を責め立てる。そんな暮羽を愛輝が庇い、「暮羽は俺の親友だから」と笑顔で言えば、周りは「愛輝は本当に優しい」と言ってうっとりとした表情をして愛輝を見詰める。

 だから愛輝は暮羽を常に傍に置き、周りから虐げられる彼の姿を見ては優越感に浸り、そんな暮羽を「親友だから」と言って親友を庇う自分にも自己陶酔していた。

 魔王が「花嫁を迎えに来た」と言った時、愛輝は直ぐにその花嫁は自分の事だと思った。

俺は愛されて当然だから。

皆に愛されているから、魔王もきっと自分の事を愛してくれると。

 しかし、魔王は愛輝には一切目を向けなかった。出会った時から表情1つ変えず、愛輝達を冷えきった目で見るだけ。愛輝はそんな魔王を見て、きっと不器用な奴何だと勝手に結論付けた。いざ花嫁と会って、俺があまりにも綺麗だから、きっと魔王も驚いて動けないだけなのだと……

 そう結論付け、愛輝は魔王に抱きついて目を輝かせて「花嫁になっても良い」と伝える。愛輝は本気で魔王の花嫁になりたいと思った。
こんなにも綺麗で、何もかもを兼ね備えている存在は、この魔王だけだ。

魔王の隣は俺が一番相応しい

 頬をほんのりと赤く染め、愛輝が魔王に口を開こうとした時、国王達が愛輝を魔王から引き離した。邪魔をされた愛輝は国王達をギロリと睨み文句を言おうとするが、第三者の登場で口を開く事は出来なかった。

 魔王へ視線を向ければ、其処には銀髪蒼眼の眼鏡をかけた知的そうな男が立っていた。彼は何かを大事そうに抱えながら魔王へ話しかけている。

『花嫁を連れて来ました。目的はこれで達成しましたが、あの人間共は如何なさいますか?』

『もう此所には用は無い。去るぞ』

『畏まりました』

 魔王は銀髪の男が大事そうに抱えている『誰か』を自分の腕に抱き、2人は一瞬にしてその場から消え去った。去り際、腕に抱いた『誰か』を愛おしそうに見詰める魔王の表情が、愛輝は忘れられなかった。

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