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人を愛した魔族達《完結》
6
「潰す。徹底的に潰しますよ。人間共……」

 我が陛下の花嫁にしたこの仕打ち。何倍にもして返してやりますよ。

 リューイは珍しく本気で怒っていた。腕の中で泣き疲れて眠ってしまった子供を大事に抱き抱える。そして、あまりの軽さにリューイは再び怒りを露にする。

許すまじ、人間共。

 リューイは初めて他の魔族達が人間共を嫌悪し憎む気持ちを理解した。最初は人間に対して興味は無かった。しかし、主である魔王陛下が人間を気に入り、花嫁として迎え入れると言う発言により、その花嫁となる人間にのみ、リューイは興味を抱いた。

 リューイは元々人間に恨みがある訳でも、憎んでいる訳でもない。鬱陶しい害獣、ただそれだけの認識だった。

 しかし、花嫁となる人間が突然涙を流し、助けを求める姿を目の当たりにし、リューイは自分の中の何かがプツンと切れた。

 簡潔に言ってしまえば、「私がしっかりこの子を護らねば」である。痩せ細った体に、ボロボロな衣服。体中傷だらけで、必死に涙を流して助けを求める健気な姿が、リューイの庇護欲を駆り立てたのだろう。

「人間等何時でも滅ぼせますね。先ずはこの子の衣服を取り替え、怪我の手当をし、十分な睡眠と栄養価の高い食事を用意しなければ……」

 暮羽を横抱きにし、リューイは立ち上がり、魔王のいる場所迄魔方陣を使い、移動した。





 魔王は睨みつける人間達に「花嫁は俺が連れて行く」と静かに告げる。その言葉に、国王達は更に殺気立つ。

花嫁だと?

まさか、愛輝を攫いに来たってのか?

魔王、貴様……

愛輝は渡しません

 口々に馬鹿げた事を言う人間共に、魔王はクツリと不敵な笑みを浮かべる。その笑みを見た者達は皆恐怖した。鋭く氷のように冷ややかな瞳から目が離せない。離したら最後、殺されてしまうのではと言う錯覚に陥る程、魔王の力は絶大だった。

「なぁ! 花嫁って何だ!? お前、俺を花嫁にしたいのか!?」

「「「「愛輝!」」」」

 しかし、神子には魔王の殺気は効かないようだ。嫌、効かないと言うよりは、殺気にすら気付いていないと言った方が正しいのかもしれない。不躾に腕に巻き付いている腕が鬱陶しい。

「お、俺を花嫁にしたい何て……そ、そんなの、駄目何だからな……俺は神子で、皆のものだから……そう言うの、良くないと思うし……で、でも、お前がどうしても俺を花嫁にしたいって言うなら、お前の花嫁になってやっても良いぜ!」

五月蝿い猿め

 魔王は心の中で目の前の五月蝿い存在を罵った。魔王が求める花嫁は、腕に巻き付いている猿ではない。そもそも、魔王は「花嫁を迎えに来た」と言っただけで、「神子を迎えに来た」とは言っていない。何故花嫁=神子になるのか疑問だが、理解したいとは思わなかった。

 相手を油断させる為とは言え、こちらの役はリューイの方が良かったかもしれない、と魔王は思うも、時既に遅し。信頼する幼馴染みであり、従者であるリューイは今頃、花嫁を迎えに行っている最中。

 魔王が人間共を引き付け、囮になっている最中に本当の花嫁を連れ去る策では有ったが、まさか神子が此所迄目障りな存在だとは流石の魔王でも思わなかった。

 自分勝手で我儘。下品で醜悪。こんな醜い存在の何処が神子だと言うのか、本当に人間は理解出来ない。そう思いつつ、魔王は顔を不機嫌に歪めたまま、愛輝を睨みつける。

「おや、まだ暴れておられなかったのですね。陛下にしては珍しい」

「リューイ」

「花嫁を連れて来ました。目的はこれで達成しましたが、あの人間共は如何なさいますか?」

「もう此所には用は無い。去るぞ」

「畏まりました」

 愛輝達の存在は無視し、突然現れた銀髪の男と話し込む魔王。人間達が何を言っても一切聞く耳を持たず、2人だけで話を済ませ、一瞬にしてその場から2人の姿は消えた。

 去り際、魔王の腕の中に誰かが抱き抱えられているようにも見えたがそれが誰だったのか、愛輝達は分からなかった。

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