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人を愛した魔族達《完結》
5
 愛輝と暮羽が異世界へ召喚されてから、1ヶ月程過ぎた頃。突然、愛輝達が居た場所に衝撃音が響き、建物の一部にポッカリと大きな穴が空く。

 愛輝達が驚く間も無く、その穴から黒い軍服のような衣装を纏った男が現れる。黒い髪にダークグレイの瞳をした、この世の者とは思えぬ程美麗な容姿に、愛輝だけで無く、その場に居た全員が息を呑んだ。

 誰も何もする事が出来ない状況で、黒い軍服を纏った男は愛輝達に鋭く冷たい視線を向け、静かに口を開いた。

「我が花嫁を迎えに来た」

 その発言で、漸く正気を取り戻した国王達は愛輝を護るように囲み、それぞれの武器を構えた。





「全く、ド派手に暴れるのは宜しいですが、こちらの事も考えて頂きたいものです」

 爆発音と地響きを聞き、リューイはそれを引き起こした主の愚痴を零す。

 激しく暴れて構わないとは言いましたが、此所が潰れてしまえば折角立てた計画も台無しでは無いですか。本当に我が陛下は……
グチグチグチグチ、主に対して余程不満があるのか、リューイの愚痴は止まらない。

「……だ……れ?」

 ヤケに外が騒がしい。何かが爆発したような音に、地響き。朦朧とする意識の中、直ぐ近くで聞こえる声に、暮羽は視線を向ける。暮羽の声に気付いたのか、視界の青っぽい何かが動く。

 相手が何かを言っている気がするが、衰弱し切った暮羽には正しく聞き取る事が出来ない。

とうとう、誰かが殺しに来たのかな、暮羽はそう思った。

 何時もそうだった。「死ね」「消えろ」何て、何度も何度も言われ続けた言葉だ。それに、前の世界では生徒会会長に蹴り飛ばされ、屋上から落とされた。本人に殺す気が有ったのか無かったのかは関係無い。彼が、彼等が暮羽を殺したがっている事は分かっていた。

 そして、それはこの世界でも同じ。今はこうして生かされていても、何時かきっと誰かが殺しに来るだろうと。或は、殺さずとも何れ衰弱仕切って遅かれ早かれ暮羽は死んでしまうだろうと。

 死にたいかと問われれば暮羽は迷わずに死にたくないと答える。けれど、周りがそうはさせてくれない。生きたくても、周りが暮羽が生きる事を許さない。暮羽が死んでも、誰も悲しむ事は無い。漸く邪魔者が消え去ったと言って、またあの日常を繰り返すだけ。

 そう思うと、余計に悔しくてたまらなかった。こんな所で死にたくない。こんな理不尽な理由で、殺されたくない。本当は、もっと生きたい。誰かに必要とされたい。気が付いたら、暮羽は涙を流していた。初めて、「嫌だ」と言った。

死にたく、ない

もっと、生き、たい

……れか……だれ、か……

た す け て

 やっと言えた言葉はあまりにか細く、良く耳を澄ませていなければ聞こえない程小さいものだった。しかし、目の前の存在には暮羽の思いは十分過ぎる程伝わっていた。涙を流し続け、怯え続ける暮羽を、暖かな何かが包み込む。

「安心して下さい。私は貴方を殺しません。貴方は陛下の大切な花嫁なのですから……」

 もう、大丈夫ですよ?

「っ……」

大丈夫

 それは暮羽が一番欲しかった言葉。その言葉を聞いた瞬間、暮羽は自分を包み込んでいる存在に強く抱き付き、子供のように声を出して泣きじゃくった。

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