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人を愛した魔族達《完結》
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 地下牢に閉じ込められて数週間。暮羽の扱いは最初と何1つ変わらず、食事は何時も残飯か腐りかけのものばかり。怪我の手当もされる事無く、食事を運びに来た人々は皆暮羽の姿を見て顔を歪め「汚い」と言って罵った。

 時々、愛輝や彼の取り巻きが暮羽の元へ訪れるが、暮羽を地下牢から出す気は一切無く、暮羽を見て好き勝手罵って、満足したら帰ると言うのが常だった。

『暮羽は不幸を齎す忌み子何だってな! 皆に不幸を齎す何て駄目なんだぞ! そんな事してるから此所に閉じ込められたんだろ! そう言うの良くないんだぞ!』

『神子様、あまり忌み子に近付かないで下さい。何時何をされるか分かったものではありませんからね』

『そうだぞ? アイラ。こんな不気味で気持ち悪い忌み子何かと一緒にいたら綺麗なお前が穢されちまうだろうが』

『な、何言ってんだよ!? お、俺はそう言うの気にしないぞ! そ、それに、暮羽は俺の親友だ!』

『神子様は優しいねぇ。こんな忌み子何かを気にかける何てさ……』

 暮羽にはどれも聞き慣れた言葉だった。環境は違えど、暮羽に対する仕打ちは前の世界の生徒会役員と何1つ変わらない。違うと言えば、暴力を振るわれる事は無いと言う事だけだった。

 幸い、この世界の人間達は余程黒を恐れ忌み嫌っているのか、触れる事すら気味悪がり、暮羽に触ろうとする者はいない。その為、暮羽に取ってはこちらの方がマシと言えばマシだった。

 こんな理不尽な扱いをされ、存在自体を全否定され、嫌われ、敵意を向けられ、暮羽は何時も思っていた。

 どうして俺だけが、こんな扱いを受けなきゃならないんだ

 何で、俺ばっかり辛い思いをしなきゃいけないんだ

 全部全部、広瀬愛輝が暮羽の同室者になってから可笑しくなった。今迄ずっと平穏に過ごしていたのに、愛輝が同室になってから、暮羽の地獄は始まった。

 嫌だと言っても無理矢理連れ回し、断っても全く聞く耳を持たず、何かに付けて『親友だろ』と言って、縛り付けて。そのクセ、生徒会役員達に敵視され理不尽な理由で暴力を受けている事にも気付かず、親衛隊達に痛めつけられても、壮絶な苛めに遭っても、愛輝は全く気付かずに、まるで全て暮羽が悪いと言うような発言ばかりする。

 そんな愛輝の存在が鬱陶しいと何度も思った。いっそ消えてしまえば良いのにと思った事だって何度もある。それ程迄に、暮羽は愛輝の事を恨み、嫌悪していた。

 もう、放って置いて欲しい、それが暮羽が一番望む事だった。もう関わらないで欲しい。振り回さないで欲しい。

「ニャァ」

「……ね……こ?」

 暮羽が物思いに耽っていると、突然猫の鳴き声が聞こえた。声のする方へ視線を向けると、其処には見慣れた黒い猫が居た。何処から来たのかは分からない。初めて会ったその日から、この黒猫は毎日のように暮羽の元へ訪れている。

 何をする訳でもない。擦り寄ってくる猫の体を撫で、食べられるものがあれば、食べ物を猫に全て譲り、また猫を撫でる。数十分程猫を撫で、撫でている途中で意識を手放し、気が付くと猫はいなくなり、そしてまた猫が訪れる。そんな日々が毎日続いていた。

 今日もやってきた黒猫に、暮羽は酷く痩せ細った腕を伸ばし、骨と皮だけになってしまった手で猫を撫でる。猫は大人しく、暮羽に甘えたように擦り寄って来る。

 そんな些細な猫の仕草が、暮羽はとても嬉しかった。全てから敵視され続けた事も有り、こう言った好意に満ちた行動をする猫が、暮羽に取って唯一の生きる糧になっていた。

 黒猫を優しく撫で続け、数十分後には暮羽は意識を手放してしまった。そんな暮羽の様子を黒猫はジッと見詰め、初めて会った時よりも痩せ細った暮羽へ歩み寄り、彼の頬をペロリと舐める。

 こんなに痩せてしまって……もう直ぐだ。もう直ぐ……お前を此所から連れ出せる。だからもう少し、後少しだけ……

「必ず、迎えに来る。それまで、もう少しだけ、耐えてくれ」

 黒猫から人へと変わった男は暮羽の頭を優しくひと撫でし、其処へキスを落とす。暮羽に優しい笑みを向け、「お前は、俺が幸せにする」と言い、男は一瞬にして地下牢から姿を消した。

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