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初恋の味はアップルパイ《完結》
14
「あ、あの……ゆ、ユリウスさま……あの時は、その……」

 リベルテと一緒に来たユリウスを見て、シンジュは申し訳なさそうに声を掛けた。シンジュはユリウスを殺す為に、この城へやって来た。

 それが仲間達の理不尽な命令だったとしても、罪悪感が消える事はない。姉を蘇らせる為にと、王子を殺すまで海に戻るなと、家族も居場所も失ってしまったシンジュは、仲間の命令に従うしかなかった。

 リベルテは「お前のせいじゃない」と言ってくれたが、ユリウスはそう思ってないだろうと、シンジュは考えていた。ユリウスを殺そうとした事実は何をしても消えない。

 リベルテは許してくれても、ユリウスは許してくれない。きっと、今でも自分の事を恨んでいると、そう思い込んでいた。

「済まなかった」

「っ!?」

 ユリウスが謝罪するのは、予想外の反応だった。優しく頭を撫でられ、シンジュは酷く困惑した。

「どう、して……ユリウスさまが、謝るんですか?謝るべきなのは……」

「お前の姉を救えなかった。救える筈だったのに、俺は、彼女を死なせてしまった。俺があの時、救えていたなら、お前が仲間に俺を殺せと命令される事も、仲間達から迫害を受ける事もなかった」

「…………」

「お前やリベルを苦しめる原因を作ったのは俺だ。本当に、済まなかった」

 深々と頭を下げるユリウスに、シンジュは慌てて「頭を上げて下さい」と言った。

「お姉ちゃんが死んだのは、ユリウスさまのせいじゃ、ありません。お姉ちゃんが死んだ時は、辛い事ばかりだったけど、その、リベルさまと、出会えたし、ユリウスさまも、クラウスさまも、すごく、優しくて、暖かかった。

本当の家族みたいに、心配してくれて、とても、嬉しかったです。だから、えっと、その…自分のせいだと、思わないで下さい」

あぁ、やはり、この子は彼女の弟なんだな……

 他人を責めない所も、誰かを恨んだり憎んだりしない所も、誰かの為に行動出来る所も。

 シンジュの姉と話した時の事を思い出し、シンジュの言った言葉を頭の中で復唱し、ユリウスは心が軽くなった気がした。シンジュと同様、ユリウスもシンジュは許してくれないと思っていた。姉を死なせてしまった事や、自ら命を絶つ切っ掛けを作ってしまった事、二人を苦しめてしまった事。

 しかし、シンジュはユリウスを責めなかった。ジンジュはユリウスを「優しい」と言うが、本当に優しいのはシンジュの方だと思った。

「兄上は何でも一人で考え過ぎなんだよ」

「リベル……」

「誰かに頼る事も、時には必要だと思いますよ?一人で何でもしてたら疲れるじゃないですか」

「…………」

「頼むからいい加減くっ付いてくれ。いっそ襲って喰ってしまえ。俺の為に…」

「喰うって、何をだ?」

「……鈍い……」

 鈴の発言には少し動揺したが、彼等の優しさは嫌と言う程ユリウスに伝わった。誰かに大切だと思われる事も、誰かから「頼ってもいい」と言われる事も、今迄一度としてなかった。

 夕と出会ったあの時を除き、夕達と再会するまでの間、ユリウスが誰かに心を許して誰かを頼ったり、甘えたりした事はなかった。

 長年従者として傍に居るクラウスにさえ、ユリウスは心を許していなかった。

誰かに頼ってはならない。

助けを求めてはならない。

弱さを見せてはならない。

感情を悟られてはならない。

 それが当たり前だった。全て1人でこなす事が当然だと思っていた。けれど、彼等は違った。

 「1人じゃない」と、夕は言ってくれた。「自分のせいじゃない」と、シンジュは言ってくれた。「1人で抱えすぎだ」と、リベルテは言ってくれた。鈴の言葉は辛辣だったり、自分の為だと思われたりもするが、彼がユリウスの恋を応援している事も、嫌と言う程伝わってきた。

「誰かに優しくされるのは、こんなにも、嬉しい事なんだな……」

 ふわりと、ユリウスは嬉しそうに微笑んだ。作り笑いではなく、無理に笑っているのではなく、心から嬉しいと感じている事が分かる、とても綺麗な笑顔だった。

 ユリウスが心から笑っている顔を見るのは初めてで、全員一瞬驚きはしたものの、笑っている事が嬉しくて、お互いがお互いの顔を見て笑い合った。

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