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初恋の味はアップルパイ《完結》
10
 城へ帰るまでの道中、ユリウスはずっと夕の手を離さなかった。夕が何度断ろうとも、ユリウスは無言で足を進めた。周囲からの視線も気になり、夕はクラウスとリベルテに助けを求めたが、二人は前を向いたまま、ユリウスを止めなかった。

 そして、やっと城に着き、夕は安堵したが、ユリウスが夕の手を離すことはなく、そのまま足を進めてしまう。夕は慌てて「もう大丈夫ですよ?」と伝えても、やはりユリウスは答えてくれなかった。咄嗟に後ろを振り向き、クラウスとリベルテを見ると、二人は気まずそうな顔をして視線を逸らしていた。

 罪悪感はあるものの、二人はユリウスを止めようとはしなかった。

「や、やっぱり、止めた方が……」

「命を落としても良いなら、ユリスス様を止めて下さい」

「…………」

「ユウ様には申し訳ありませんが、今のユリウス様に私達が何を言っても聞く耳を持たないでしょう」

「……確かにな。兄上は、ずっと夕を捜し続けてたんだよな」

「ええ。ユウ様は、ユリウス様をユリウス様として受け入れて下さった恩人。好意を抱くのも、当然の流れだったのでしょう」

「意外だな。お前が兄上以外の人間を認めてる何て。兄上の婚約希望者の連中に対しては冷酷なくせに……」

「自分の事しか考えない身勝手で醜悪な貴族と、立場も損得も考えず、誰かの為に尽くすユウ様と、どちらが良いかなど、言うまでもないでしょう」

「随分とユウの事を気に入ってるんだな」

「ユウ様は、私の恩人でもありすから……」

「恩人、か……」

 作り笑いではなく、心から笑っているクラウスを見て、リベルテは珍しいと思った。長年ユリウスに仕えているクラウス。当時のクラウスは一切笑わなかった。ユリウスを立派な国王にする為に、クラウスは厳しい教養をユリウスに強いていた。甘えは一切許さず、感情を表に出さないようにと言い続けていた。暗殺者に狙われた時も、直ぐには助けず、助けたとしても、ユリウスに対して辛辣な言葉ばかり言っていた。

 それが、ある日を境に、ガラリと変わった。勿論、クラウスの教育は厳しかったが、以前のように甘えを一切許さないやり方はしなくなった。良い点も悪い点も指摘し、1日の勉強や鍛錬が終わると、クラウスは必ずユリウスを褒めるようになった。ユリウスの体調を気にするようになった。その頃から、クラウスは少しずつ笑うようになった。

「不思議な方です。ユリウス様だけでなく、貴方やあの子の事も救ってしまうのですから……」

「そうだな」

 ユウが居たから、真実を知る事が出来た。誤解だったと気付く事が出来た。もし、ユウが居なかったら、今のような現実にはならなかった。

「スズ様にも、感謝しないといけませんね」

「……あぁ……」

 ユウだけじゃない。スズにも色々助けられた。二人が居たから、奇跡が起きた。どちらか一人だけでは起こせなかった奇跡。

「俺、スズに会ってくる。ユウは暫く戻れねぇと思うし……」

「そうですね。では、私は執務に戻ります。今日の仕事を片付けなくてはなりませんから……」

「あぁ」

 お互いに笑い、二人は目的場所へ向かう為、ゆっくりと歩き出した。

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あきゅろす。
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