初恋の味はアップルパイ《完結》
6
一方、街では居る筈のない人物の登場に驚き、騒ついていた。目立つ容姿を隠しもせず、ユリウスは真剣な表情をして街の人達に夕と鈴の行方を聞いて回った。尋ねられた人は皆、頬を赤く染め、うっとりした表情をしてユリウスの質問に答えた。
しかし、二人を見たと言う人は居るが、何処へ向かったかまでは分からないと言う答えばかりで、ユリウスは表情に見せないものの、焦っていた。中には夕の事を非難する人も居て、ユリウスは不快感を抱くも、話が終われば街の中を移動して、二人を捜し続けた。
「兄上、どうだった?」
「何処にも居ない」
「こちらも捜してみましたが、お二人の姿は何処にも…リベルはどうでしたか?」
「こっちも駄目だ。二人の姿を見たって言う人は居たけど、何処に行ったかまでは……」
二人と合流して、夕と鈴が居たか確認するが、誰も二人を見付けられなかった。
「これだけ捜しても居ないとなると、やはりリベルの言う通り、何者かに攫われている可能性も拭えませんね」
「っ!? だったら早く二人を見付けねぇとっ!」
「闇雲に捜してどうするんです? これだけ捜しても見付からなかったんですよ?もっと冷静に考えて……」
「二人が危険な目に遭ってるかもしれないのにっ、冷静でいられる訳ねぇだろっ! もし、このまま二人が戻ってこなかったらどうするんだよっ!」
「それを阻止する為に今こうして捜しているのでしょうっ! 危険な輩に攫われているのなら、尚の事用心して行動しなければ、二人を取り戻す事も出来ませんっ! それくらい貴方でも理解できるでしょうっ!」
「だったら何か策でもあるのかよっ! 今こうしている間にもっ、二人は何をされてるか分からねぇんだぞっ! 手遅れになったら、それこそ大問題だろうがっ!」
「ですからっ、今こうして考えを張り巡らせて『いい加減にしろっ!』」
「「っ!?」」
口論を続ける二人に痺れを切らし、ユリウスは声を張り上げて怒鳴った。普段、あまり怒らないユリウスが、決して感情を表に出さないユリウスが、珍しく二人に対して怒りをぶつけたのだ。
「口論している場合か?二人を救う気が無いのなら、今すぐ城へ帰れ。今のお前達では足手纏いだ。頭を冷やせ。二人は俺一人で捜す」
「…………」
「…………」
正論だ。二人が見付からない事に焦り、冷静な判断が出来なくなっていた。ユリウスはリベルテとクラウスに背を向け、足早にその場から立ち去ろうとした。二人が引き止めようとするも、ユリウスは聞く耳を持たず、進める足を止めなかった。立ち止まっていた二人は、慌ててユリウスの後を追った。
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