初恋の味はアップルパイ《完結》 7 「「…………」」 夕と鈴は言葉を失った。見渡す限り箱、箱、箱。部屋の中に山のように積み上げられた箱を見上げ、鈴と夕は同時にユリウスへと視線を向ける。 『大量に贈られて来る林檎の焼き菓子を処理する方法を考えて欲しい』 ユリウスと話して行く内に、2人はユリウスと少しだけ仲良くなった。その時にアップルパイの話になり、ユリウスが大量に贈られて来る林檎の焼き菓子に困っていると聞く。何時もどうやって処理するかで頭を悩ませている、と。 本当に困っている様子のユリウスを放っては置けず、2人は言ってしまったのだ。 「協力しましょうか」と。 2人のその言葉を聞いた瞬間、ユリウスはパッと表情を明るくさせ夕の手を握り「よろしく頼むっ!」と言った。 それからの流れは早く、先ずは状況把握しようとユリウスの部屋へ向かったのだが、其処で2人は顔を真っ青にする。 贈られて来たアップルパイの量が、2人の予想を遥かに超える量だったからだ。見渡す限り箱の山で、林檎の匂いが鼻に付く。普通なら美味しそうな匂いがする筈なのに、莫大な量のせいで、折角のアップルパイの香りが台無しになっている。異臭とも言える臭いに、2人は我慢出来ず顔を顰める。 「あの、何時も、この量何ですか?」 恐る恐る鈴が問うと、ユリウスは首を横に振る。 あ、何だ。何時もはもっと少ないのか。ちょっと安心した。 と2人が思っていた時…… 「これはまだ少ない方だ」 「「えっ!?」」 「普段はこの3、4倍の量が贈られて来る」 「「まさかの逆っ!?」」 「お陰で客室だった部屋が倉庫と化してしまった」 「「…………」」 そりゃ、こんだけの量を贈られて来たら頭を抱えても無理は無いよな。 2人は心の中でユリウスに同情の言葉を呟いた。今、ユリウスの部屋に山積みにされている量でも多いと言うのに、何時もはこの量の3〜4倍の量が贈られて来るのだから、贈られて来る方からしたら溜まったもんじゃない。 様々な口実を作ってはパーティーを開いて処理していると言うが、それでも全てを処理出来ていないのが今の現状らしい。主な贈り主がユリウスの婚約者になりたい王族貴族故に、処理するにしてもかなり厄介だと言う。 「処理するって言ってもなぁ……」 「大食い大会か、城下で林檎のお祭りをする位しか……」 「後は、貧しい地域に配布するとか……けど、場所によっては痛むよな」 「…………」 「…………」 「「……はぁ……」」 「済まない……」 大食い大会とは何だ? 林檎の祭りとは、林檎で何かをするのか? 貧しい地域に配布とは……具体的にはどのように…… 「「…………」」 夕と鈴はユリウスの質問に驚き、言葉を失う。日本では当たり前のようにあった事を口にしただけなのだが、どうやらこの世界には日本のようなイベントや支援活動と言った事はしていないらしい。 最初こそ驚きはしたが、世界が違えば文化も違う事を改めて理解し、2人はユリウスに1つずつ丁寧に説明した。説明していく内に、ユリウスは2人が居た世界に酷く興味を持ち、熱心に2人の話を聞いた。2人が居た国の国民性や高い技術力等を知り、微笑みながら「また、聞かせて欲しい」と言った。 2人は顔を見合わせ一瞬キョトンとするが、ユリウスにニッコリと笑い「俺達の話で良いなら……」と伝えた。 大量の林檎の焼き菓子は、毒や異物が入っていないかを厳重に調べた後、貧しい地域に住む人々の元へ配布する事に決まった。 [←前][次→] [戻る] |