[通常モード] [URL送信]

初恋の味はアップルパイ《完結》
6
 ユリウスが眠っている間に五人の神子が再び揃った事、月や黒は不吉の象徴ではない事を国民に公表した。彼らが信じていたものはシェルスの一族が月の神子を手に入れる為に広めた嘘の情報だ。長い時間をかけて、シェルスを含む一族は嘘の情報を世界へ浸透させた。月が不吉の象徴だと広めたのも、月の神子であるユリウスを孤立させ、心が弱っている時に優しくして彼の心を手に入れようと企んだから。

 ユリウスを手に入れる為にシェルスは利用できるものは全て利用し、邪魔な存在は周囲の者達を操って抹消した。洗脳や魔術に長けていた彼の唯一の弱点は海の神子。だからシェルスは真っ先に海の神子を消し去ろうとしたのだ。当時、海の神子だと思われていたシンジュの姉、ヒスイを。しかし、シェルスよりもヒスイの方が一枚上手だった。

「あの小娘、ヒスイには先見の能力があったのさ。自分が死ぬ事も、海の神子殿が死ぬ事も最初から知っていた。それでも、あの子は諦めなかった。自分の命はどうなってもいい。弟の命を救う為ならと言って、ヒスイは地上へ行った。地上へ行けば、弟を救う術があるかもしれないと強い意志を宿してね」

 クラウスが過労で倒れるかもしれないと心配して、深海の魔女と呼ばれている人魚が城を訪れた。人魚の名はツクヨ。ツクヨとヒスイは昔からの知り合いで共犯者だと語る。二人共シンジュが海の神子だと最初から気付いており、シェルスや人魚族から彼を護る為に周囲を騙していたのだ。

 ヒスイは自分がシェルスに殺される事を知っていた。知った上で、彼女はシンジュを救う方法を探し出し、それをツクヨに託したのだ。そして、彼女が言った通りシンジュは自ら命を絶ち、海の宝玉となってしまった。ツクヨはその宝玉を誰にも奪われないよう守り続けた。神子が再び現れるまで……

「人魚族を誑かすまでは良かったが、ワタシが動くとは思っていなかった。それに加え、海の生きもの達は全て海の神子殿の味方だ。ヒスイの思惑に気付けなかった。それが奴の敗因だよ」

「それだけじゃねえだろ。俺だって奴の思い通りになるのは絶対に嫌だったからな。神子の証をリンに託したのだって想定外だろ?」

「月の神子、夜の神子、空の神子、海の神子が集まっていたんだから勝ち目なんてある訳ないだろ? 彼奴は神子の力を見誤った。罰を受けて当然だよ」

「それならそうと言ってくれれば良かったのに。何故、私に黙っていたんですか?」

 ツクヨの顎に手を添え、クイッと上を向けさせてクラウスが問う。緩く波打つ柔らかな碧色の髪が僅かに揺れる。美しい青紫の瞳に怒りを宿し、彼は顎に触れているクラウスの手をバシッと払いのけた。

「時と場所を考えな。クラウス」

「相変わらず冷たい方ですね。私はずっと貴方だけを想っていたと言うのに……」

「こんな老い耄れを口説くなんて悪趣味だね。吐き気がするよ」

「その美貌で老い耄れって……」

「ツクヨさま、何年生きてるんですか?」

「二人はどう言う関係なんだ?」

 上から夕、シンジュ、鈴が順番に質問したがツクヨは一切答えず、クラウスが話そうとすると無理矢理黙らせた。

「ワタシ達の事はどうでも良いんだよ。神子殿は今後の事だけを考えな」

「罪人達の処罰は私達に任せて、ユリウス様達は存分にお祭りを楽しんでください」

 暗い話は終わったとばかりに、二人はユリウス達に告げた。五人の神子が揃ったのだ。式典やパレードなど、やる事は沢山ある。一ヶ月くらいは国中お祭り騒ぎになるだろう。やるべき事を終えればお祭りを楽しめばいいと告げて、真面目な話は終わった。

[←前][次→]

6/14ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!