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初恋の味はアップルパイ《完結》
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 夕に話をしていたシェルスは、少し離れた場所を歩くユリウスを見てスッと立ち上がり、嬉々として彼の元へ向かった。残された夕は満面の笑みを浮かべてユリウスに近付くシェルスを見て「やっぱり、あの子苦手だなぁ」と呟いた。

 嬉しそうに笑うシェルスとは対照的に、ユリウスの表情は相変わらず無表情だった。少し後ろで控えているクラウスなんて笑っているが目が笑っていない。二人の本心を知らないのか、敢えて気付かぬフリをしているのか、シェルスは嬉しそうにユリウスに何かを言っている。

 シェルスに対して、ユリウスの反応は相変わらず冷たいままだ。周囲は二人を見て「お似合いですね」と感想を述べるが、ユリウスはシェルスの事を好きではなかった。むしろ嫌いで関わりたくないが本音だった。しかし、それなりに地位と権力があるシェルスを蔑ろにする訳にもいかず、形だけは丁重に扱っていた。

「あの、ユリウス様。そろそろ、ユリウス様のお部屋で寝泊まりしてもいいですか? 婚約者なんですから、同じ部屋で過ごす事も必要だと思うんです」

 頬を赤く染め、照れながら提案するシェルスに、ユリウスは変わらぬ態度で「それは出来ません」と即答した。以前、クラウスが言ったようにユリウスは多忙で自室で仕事をする事も多々あるのだ。その仕事内容はこの国にとって重要なものも多く、他者に見られては困る書類や契約書も沢山ある。

 婚約者だから、近い将来夫婦になるから。そんな理由でユリウスがシェルスを自室に招く筈がない。婚約が決まった時からベタベタと触れてきて、好きな人が居るから諦めてくれと丁寧に断っても聞いてもらえず、ユリウスはシェルスの相手をするのに疲れ果てていた。今ではもう適当に話を聞き流してしまう程だ。

「貴方には専用の部屋を用意しています。そちらで寝泊まりしてください」

「ユリウス様が傍に居ないと、僕、寂しいです」

 大きな瞳をうるうると潤ませ、シェルスはユリウスに訴えた。他の人が見ればユリウスを一途に思う健気な人物に見えるのだろうが、態とらしい仕草や自分に媚びた態度は更にユリウスを苛つかせた。シェルスが来てから、シンジュとリベルテは常に気を張り詰め、鈴はシェルスと関わらないように距離を置き、夕はシェルスの態度や仕草で悪者扱いされ、みんなから笑顔が消えて行った。

 シンジュとリベルテが相思相愛だと知っているにも関わらず、彼は人魚族の長と結ばれた方が幸せだと力説し、ユリウスに相応しいのは偽物の神子じゃなくて自分なんだと必要以上にアピールする。はっきり言って気持ち悪いし、シェルスの存在そのものが不気味で薄気味悪かった。

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