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初恋の味はアップルパイ《完結》
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 抵抗と言う抵抗も出来ず、夕は街へ連れ出され、ユリウスの背中に隠れるようにして街中を歩いた。周囲から感じる視線。行く先々でまじまじと見られ、夕は来て早々城に帰りたくなった。

「わぁ、すごく、きれい……」

「気になる所が有ったら遠慮せずに言えよ。案内する」

「っ、本当ですかっ!? で、でも、迷惑じゃ……」

「迷惑な訳ねぇだろ?俺はお前の喜ぶ顔が見たいんだ」

「っ!?」

 格好いい台詞を言っているが、リベルテの表情は緩んでいた。部屋の中で見た時も可愛かったが、太陽の光が降り注ぐ街中で見るシンジュは、より一層可愛かった。鈴が着せたワンピースも、装飾品も、シンジュにとてもよく似合っている。

「僕も……す、すき、です……」

「シンジュ?」

「リ、リベルさまの笑った顔が、す、好きですっ!」

「っ!?」

 頬を赤く染めて一生懸命自分の思いを告げるシンジュ。あまりにも可愛くて、周囲の視線も気にせず、リベルテはシンジュを強く抱き締めた。顔を真っ赤にして、嬉しそうに微笑むリベルテと、恥ずかしいけれど、リベルテの笑顔が見れて嬉しいシンジュ。二人の雰囲気はとても甘い。

「…………」

 そんな甘い二人の様子を眺めながら、夕はずっと下を向いたままユリウスの背中に隠れていた。最初にこの世界に来た時、黒い髪と黒い目は忌み嫌われる対象だと聞かされた。この世界に来て早々、牢屋に閉じ込められ、鈴に助けられた後も、容姿について周囲から色々と言われ続けた。

 もし、この世界にたった1人でやって来たら、夕は耐え切れなかったかもしれない。周囲の視線や言葉を気にせずにいられるのは、鈴が隣に居てくれるから。

 しかし、今此処に頼りになる鈴は居ない。城であれ程軽蔑されたのだから、それが街中となれば更に酷い仕打ちを受けるかもしれない。変装もせず、ありのままの姿を晒して堂々と歩ける程、肝は備わっていない。余計に敵視されると分かっていても、夕はユリウスに頼るしかなかった。

「ユウ?」

「っ!?す、すすす、済みませんっ! ごめんなさいっ! 厚かましいのは分かってますっ! 迷惑だと言うのも分かってますっ! でも、でもっ……」

街の人達が怖い。

 何を言われるか分からない。どんな目で見られるか分からない。不安ばかりが募り、まともに歩く事も出来ず、夕は立ち竦んだ。回らない頭で必死に考えていると、ユリウスに優しく手を引かれ、隣に立たされる。

 夕が不安そうにユリウスを見詰めると、自然な動きで夕の腰にもう片方の手を回し、そっと抱き寄せた。

「っ!? あ、あああ、あ、あのっ、ゆ、ユリウス、さ……」

「大丈夫です。何があっても、俺が貴方を護ります」

「っ!?」

「だから、笑ってください」

「…………」

 恐怖心が一気に吹き飛び、羞恥心で顔が赤くなる。何度も何度も優しい声で「大丈夫」とユリウスに囁かれ、夕は今直ぐ鈴の所へ逃げたくなった。

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