記念ノ噺 天の逢瀬・下 親の転勤に伴う、何度目かの転校先で親友クラスに仲良くなった奴がいた。 そいつの名前は、七夜斗織。 中学2年の時期だった。 その中学には、1年半という短い期間しかいなかったのに、七夜とはすごい親密な関係になれた。 そして、星が好きだという七夜が、七夕の時に一緒に天の川を見ようと言った。 そんで、その時大切なことを言うから、と…。 けれど、雨に降られた。 しかも2年連続。 『天の川、絶対一緒に見ような。約束だ。』 『わかった。でも、いつオレこっちに来るかわかんねぇ。』 『大丈夫。何か俺もよくわかんないけど、初めてお前が天の川を見る七夕には、必ず俺がそばにいる気がするんだ。』 『なんだそりゃ。』 『わかんないよ。でも、絶対そうなんだ。織姫と彦星がその時会うのを許されるみたいにさ。』 『ばーか。何カッコつけたこと言ってんだよ。オレは勝手に独りでも見るかんな?』 『うるさい。俺の言ったことってわりと当たるんだからな。』 『わりとかよ。まぐれじゃん、っておい擽んな、ヒ、アハハハ、やめ………―――』 それから、マジで見なかったな、天の川。 「ほら、俺の言ったこと、当たっただろ?」 「いや、得意げに言われてもね…。」 七夜と一緒に天の川を見上げる。 「翔也、」 「ん?」 「もう一つの約束覚えてる?」 「あ?え〜っと、大事な話、だっけ?」 「そうそう。よく覚えてたな。偉いぞ。」 「馬鹿にすんな。」 「ハハハ!」 七夜は、噂とは全く違って、優しい笑顔を浮かべている。 こんな顔見たら女の子は一発だな。 「あのさ、俺さ…」 「うん」 「お前のこと好きなんだ。」 「へぇ…は?」 好きって言ったか? あ、あぁ…友達としてか。 そーか、そーか…。 「組み敷きたいって意味でな。」 「ゴフッ!?」 「わりとマジだよ。」 「いやいやいや!」 「だからさ、これからはどんどん攻めていくから、早く俺に落とされて?」 そして、不意打ちのような狙ったキス。 それから、オレと七夜は黙って天の川を見た。 オレはどっちかっていうと、フリーズしてたってのが正しいんだけど。 どうやら、七夕の天の川は、とんでもない逢瀬を許してしまったようで、オレはこれ以降、七夜に押されに押されまくることになる。 そして、1年後の天の川の時に落とされる運命にあるなんて、この時は全く持って知りもしなかった。 今年の織姫と彦星は幸せそうだ。 [*前へ] [戻る] |