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記念ノ噺
04

魔力がなくなって、オレは何度も学校のあったところに行ってみた。
場所は覚えているのに、そこはただの荒れ地だった。
濁った湖と、伸び放題に生えた草。
唯一不思議なことは、動物が全く見当たらないことくらい。

オレは、本当に魔力が0になったことを痛感した。
何度も泣きたくなった。
けれど、泣いたところで魔力が戻るわけじゃない。
失われたものは二度と戻らない。
アラン先生は、最後に見送りに来てくれた時、ある魔法だけは解けないように、と初めてのキスをくれた。
校長先生が、びっくりしていてなんだか申し訳なかった。

あれから、センセに教えてもらった秘密の場所を家にして、オレは奨学金と特別に許してもらったバイトをすることで高校に通っていた。
英語に関しては、魔法学校で生活するためにと叩き込まれていたから全く問題なかったからいいんだけど、他の授業は付いていくのに必死だった。
普通の高校生の授業なんて受けたことないし、かといって、魔法学校に通ってたからとも言えず、空いてる時間は全部勉強にあてた。
その甲斐あって、一応見れるくらいにはなった。
唯一、新しく勉強した所では、生物が一番できるし大好きになれた。

そして今、オレは大学生をしている。
薬学系で、東洋薬学専攻だ。
魔法薬術と似ていて、たまに同じのもあるくらいですごく楽しい。
ちょっと、魔法学校に戻ったみたいだ。
でも、その間、一度もセンセに会っていない。

センセ、どうしてるかな?
相変わらず、温室で薬草に囲まれながら笑っているんだろうか。
いつもの優しい笑顔で…。

会いたくて仕方がない夜は、声を殺して泣いた。
声を出したら、センセの名前を呼び続けてしまいそうだったから。
でも最近は、不安になるよりも諦めが心に広がるようになった。
もう会えないのではないか。
センセは、オレのこと忘れてしまったんじゃないか。
もしかすると、やっぱり今までのこと全部夢だったのかも…。
それなら仕方がないんだ。
幸せな夢だったんだと思おう。
そう考えてしまう。
センセがくれた秘密の場所にいることで、現実を突きつけられるけれど…。



「センセ、会いたいよ…」



何で、魔力はなくなったんだろう。
なくならなければ、今もセンセといられたのかもしれない。
告白できてなかったとしても、普通に喋って、魔法薬術の話を聞いて、薬草の手入れを一緒にして…。



「う、うぅ…くっ」



唇をきつく噛んで、声を我慢する。

どうしたら会える?
どうすればセンセのいる場所に行ける?

ループする問いに、オレはふと思い出す。



――― 一面葡萄畑でね。



そう言えば先生の故郷に行ったことない。



―――のんびりした田舎だよ。



「センセの、故郷…行ってみようかな。」



たしか、アラン先生の故郷ってフランスだよね?
…どこかはわからないけど、葡萄畑の旅、してみようかな。

泣いていても仕方がない。
もし、センセがオレのこと忘れてしまったなら、最後の区切りにセンセのいた場所に行ってみたい。
そしたら、きっと諦められる。
二度と会えなくても、そこに行けば面影くらいは追えるから…。

オレは、早速準備した。
大学の教授や先輩、友達に、3ヶ月は帰らないだろうからその間、迷惑をかけることをあらかじめ謝っておいた。
どの人も、オレの元気のなさに気付いていたみたいで、むしろいい気分転換になるかもしれないからと、快く許してくれた。
本当に申し訳ない。

そして、オレはフランスへ旅立った。



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あきゅろす。
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