記念ノ噺 兎と月と…1 兎、兎、何見て跳ねる? ―――――――――――――― 十月十五夜の月に見惚れて、オレはウサギ小屋から出た。 皆は普通に使う脱走穴だけど、オレはビビりだし、足も遅くてすぐ人間に捕まっちゃうから、今まで使ったことはなかった。 足が遅い兎って致命傷だよな…。 「………。」 夜なのに世界は明るくて、でも昼間と違って静かで、ビビりなオレでも闊歩出来そうだった。 ぴょん…ぴょん… 少し小屋から離れてみた。 ぴょん…ぴょんぴょん… 「ぷっ!」 「!!」 笑い声は上からした。 見上げると、綺麗な人間?が宙に立っていた。 そいつは銀色を纏ったみたいな姿で、今夜の月みたいだ。 まぁ、そんなことはどうでもいい。 逃げなければ! 「あぁ、ゴメン、ゴメン。ちょっと待ってよ。」 「!」 しまった。 足が遅いのに、小屋から離れたことで捕まってしまった。 ひょいと抱き上げられ、綺麗なそいつの目線まで持ち上げられる。 目の色は夜空のような紺碧で、吸い込まれそうだ。 「ふふ…可愛いなぁ。ねぇ、君は月ウサギを知ってるかい?」 「………。」 そんなんどうでもいいから、降ろしてくれ!離してくれ!! 「満月の夜、月の神様のために一生懸命、お餅をついてくれる兎なんだ。つまりは、月の神様の召使だね。」 人間はその兎を誇りに思っているのか、微笑んだ。 「そうそう、それでね?その月ウサギ、最近恋をしたみたいでね。今までの褒美として、番にしてやろうと思ってさ…。」 な、何か嫌な予感しかしない。 「まぁ、ぶっちゃけ?君のことなんだけどね、ってあれ!?」 やっぱりか! オレはこの夜、マジでガチで脱兎の如く小屋へ逃げ帰った。 [次へ#] [戻る] |