記念ノ噺
聖夜に天使は舞い降りる2
私の財は、もう一つしかなくなっていた。
「神よ、どうか私をお許しください。これを売ったとしても、あなたの下部であることに変わりはありません。ですから、どうかお許しください。」
赦しを乞い、毎日の祈りを捧げたあと、私は最後の財で、亡き恩師にいただいた銀のロザリオを売った。
売りに行った、店の店主が、貴方が噂の…、と言って涙ぐまれた。
ロザリオをお金に替えることを店主は拒絶したが、私も皆のためだからと譲らずにいたら、提示した額より倍のお金で買い取ってくれた。
帰った教会は、見るも無残だったが、皆の役にたったのだから良いだろう。
たとえ、私が天罰を受けたとしても構わない。
それから、私はお金を与えた。
少しずつ、一日でも長く尽きないよう、皆に行き渡るように、と…。
――――――――――――――
聖夜の前日、領主様となった次期領主様が教会の戸口に建っていた。
「みすぼらしい。」
「…これは、貴方様が招いた結果です。」
「知らんな。フン!こんな教会でミサなどできまい。あってもなくてもかわないなら壊してしまえ。」
「そんな!」
止める言葉も聞き入れてもらえず、領主様の言葉通り、教会は夜になる頃にはすっかり壊されてしまった。
絶望感に、教会の瓦礫の中を手足が傷つくのも無視して進んだ。
聖母の像も救世主の桀刑にされた木彫りも、割れてしまっていた。
雪が降り始め、寒さに体が震える。
弱り切った私は、壊れた像を抱きながら祈りを捧げるしかなかった。
どうか、皆が幸せになれるようにと…。
どうか、平和な日々が来るようにと…。
そこに、私が含まれないとしても…。
光が私に差し掛かり、天使を見た気がした。
――――――――――――――
温もりに目が覚めると、見知らぬ部屋にいた。
あの寒さの中、凍え死んだのだろうか?
「あら、神父様!お目覚めに!」
「あ、れ?」
そう言って部屋から飛び出していった女性は、たしか最後のお金を与えた人…。
「目覚めたか。」
「!」
息を切らして入ってきたのは、意識が途切れる寸前に見た天使だった。
「あぁ。すまない。私はとんでもない放蕩領主の兄、リュートだ。貴方の話を聞き、王宮から急ぎ戻ったのだが…すまなかった。」
「いえ!あの、皆は…」
「故郷は、私の部下に任せた。今は、すっかり元通りだ。」
ホッと息をつくと、リュート様は私の頭を撫でた。
「…それよりも、私は貴方に謝りたい。それから願いも…」
「何でしょう?」
「貴方は神父の地位を取り消されてしまいました。すみません。これだけは私の力でも…」
「いえ。いいんです。」
「それでこれからなのですが、私と共に生きてくれませんか?その…、一目惚れを……」
恥ずかしそうにするリュート様に、何だか私まで恥ずかしくなってしまった。
「あ、の…まだ、わかりませんが、ちゃんと考えます…、ので、えっと…よろしくお願いします…?」
そう応えるとリュート様は、花が綻んだように微笑み、思わずドキッとした。
それから、私たちがどうなったのかは、また、別のお話で…。
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