記念ノ噺
聖夜に天使は舞い降りる1
毎日、毎日、お祈りをする。
どうか、皆が幸せになれるようにと…。
どうか、世界が愛で満たされるようにと…。
たとえ、そこに神父である私の存在がないとしても、どうか…と祈る。
3年前、私の住む地方は、平和に包まれていた。
神の御加護なのか、人々は貧富の差はあれど、ささやかな幸せの中で生きていた。
優しく、互いに支え合い、勤勉で、質素倹約を旨とした人々。
しかし、新しい宗教の神官が、次期領主様のお相手にと、召喚した異世界の人間が、平和を壊してしまった。
最初のうちは、こちらの世界に勝手に呼んでしまったのだからと、我が儘もまかり通ったが、その人の我が儘は際限を知らず、次期領主様が溺愛してしまったせいで、どんどんエスカレートしていった。
領主様の財はほとんど尽き、日に日に重くなる民衆への税。
民衆こそが豊かさをつくるとはよくいったもので、現在、ここは廃れ、朽ちて、いずれはなくなるような世界になっている。
「神父様、お助けください!」
何度となく、民衆は私に助けを求めた。
「戸口に銀の燭台があります。あれを貴方に差し上げましょう。」
「しかし!あれは…」
「教会は皆のもの。私はその管理を任されているだけです。貴方がたが困っているのなら、物などいりません。」
「神父様…」
「さぁ、燭台を売って、お金に変え、それでパンを買いなさい。ただし、このことは秘密ですよ。」
「はい…はい!ありがとうございます。」
皆のために、教会の物を与え、家族を養うための糧にさせた。
元々、地方では珍しい立派な教会だったため、そうして、少しずつ砕いていっても、大丈夫だった。
銀の燭台がなくなれば、銀の食器を…、銀の食器がなくなれば、ビロードの絨毯を少しずつ…それがなくなれば、パイプオルガンのパイプを…。
流石に、パイプオルガンの時は皆に泣かれて大変だった。
ピアノがあるからいい、と何とかなだめるのに苦労した。
――――――――――――――
少しずつ、少しずつ…。
けれど、それだって終わりは来る。
「神父様…」
「すみません。何も、ないんです。すみません。」
「いえ…」
「あぁ、でも、私の食べ物でよろしかったら…」
そうして今度は自分のものを与えた。
ただ、元々ないものはなくなるのも早く、日に日に少なくなっていく。
皆から、痩せた、と悲痛な眼差しで見られることも多くなった。
いつか、目を覚ますと思っていた次期領主様は、ついに3年たっても目を覚まさなかった。
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