無色ノ噺 桜道に月明かり3 ※桜道に月明かりの続編 ついに、空間の桜がほとんど散る頃になった。 静かに、今年の逢瀬の終わりが訪れた。 「月兎、もう…」 「わかってますよ。また暫くお別れですね。」 「…うん」 だんだん、桜の体が透けて、端々が桜の花びらのようになって散っている。 「桜、愛してますよ。」 そう言って、口づけをして、優しく薄れゆく桜を抱きしめる。 「もっと、あなたといたかった…。」 「…僕もだよ。ねぇ、もしも……」 「…もしも?」 躊躇いの表情を浮かべる桜だが、なんでもない、と横に首を振り、微笑んだ。 「いいや。もしものことなんかより、今の方が大切だから。ねぇ、月兎」 すっと、桜は月兎の耳に口を近づけ、小さな声で…しかし、はっきり届く声で囁いた。 ―――貴方を愛してる。 それから触れるだけの柔らかな口づけをして、桜と化し、消えてしまった。 「また、来年お会いしましょう、桜。」 月兎もまた、月明かりへと溶けていった。 ――もしも、僕が狂って一年中咲いている桜だったら、あなたを一人にさせないのに…。 ―――――――――――――― 〜あとがき〜 長らくお付き合いいただき、ありがとうございました。 擬人化っぽい何かになりましたが、あえて作者は言い張ります。 擬人化じゃなく、精霊×精霊だ! と…。 [*前へ][次へ#] [戻る] |