無色ノ噺 夜勤 〜海那Side〜 朝もそうだったけど、オレは寝たふりをしていた。 そしたら、キスしてくんだもん…。 出そうになる手と舌を必死に抑えてた。 それから本当に暫く寝て、起きると悠志さんの置き手紙があった。 内容は、無愛想ながらもオレを気遣うもので、顔が崩れてニヤニヤしてしまった。 「ホント、可愛い…。」 「誰がっすか?」 「ん〜?秘密だよぉ。」 「いいじゃねぇか。元No.1で、現オーナーの恋愛事情、俺も気になんな。」 開店少し前、仕事用の服に着替えていた時に、思い出してぽろりと言ったら、同業者に好奇心を持たせてしまった。 「う〜ん…。どうしても知りたいぃ?」 「知りたい!」 「興味あんな。」 「そうだなぁ…。口悪くてぇ、奥手でぇ、男前でぇ…」 「え、相手って男っすか!?」 「偏見なんてないでしょお?まぁ、オレの場合あの人だけだけど。」 他の男に告られても嬉しくないしね。 寧ろキモい。 でも、悠志さんならいつでも大歓迎だ。 そう…、悠志さんが告らなければ、オレはこの次の段階に行く気はない。 悠志さんが、オレに告ることが重要なんだ。 悠志さんが紡いだ言葉で、オレは繋がれたい。 自分から告ったら、きっと縋るだけの、束縛するだけの愛になってしまうから。 それに、言わせれば、本人もちゃんと自覚出来るでしょう? 「とにかく可愛いんだぁ…。」 ホント…、理性をかなぐり捨ててしまえたら、ってたまに思うよ。 なにもかも捨てて、悠志さんがオレだけを見るように…。 オレだけを求めるように…。 破壊衝動とも取れる、凶暴なオレを解き放ってしまいたい。 でも、そんなことしたくない。 そんな醜い感情のままに大好きな人を抱きたくはない。 だから、オレは悠志さんを待っている。 まぁ、それとなく味見はしちゃってんだけどねぇ…。 「…カイさんのあんな顔、見たことないっす。」 「俺もだ。だが…」 ―――そんだけ愛しいんだろ。 オレはそう言った二人に、ニコッとした。 「さぁ、開店しよぉ?」 「「「「「はい!」」」」」 下っ端がホストクラブ『セイレーン』の看板を裏返しに行き、オレたちは入口の両サイドに並んだ。 そして、今夜もきらびやかな仮面を被り… カラン、カラン…! 「「いらっしゃいませ。」」 美しく夜に舞うのだ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |