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無色ノ噺
四話

春目前で、シノ様の病は急に重くなった。
血を吐く度に、いつか体中の血がなくなってしまうのではないか、と思った。



「シノ様、シノ様…」

「タツ、側に…いる?」

「ここにおりますだよ。」

「目が、見えな…いんだ。もう…見えない。」



彷徨う白い手を握る。
高い熱に目が見えなくなったシノ様。



「おらはここにいますだ。大丈夫ですだよ。」

「…あぁ。」



お医者様は、もうかなり前に手の打ちようがないと、首を横に振った。

今の医者の力では治せない、歯痒い…と言っていた。
悔しそうなお医者様の顔が浮かぶ。

毎日、毎日、シノ様を看病し、お医者様はおらのことを心配し始めた。
シノ様の病は一緒にいるだけで移るのだという。
今までも、シノ様に仕えた人が同じ病に罹り、亡くなっているらしい。
けど、おらにしてみれば、どうでもいいことだ。



「タツ、タツ…」

「はい。」

「私が死んだら…」

「その時は、おらも一緒に…」



するとシノ様は優しく微笑んだ。



「いや、貴方は、貴方の生きる道を、進みなさい。」

「シノ、様?」

「私について来ることはない。否、ついて来ては…いけない。」



…どう、して?



「貴方は貴方の生を…ッハァ、く…!」

「シノ様!」

「…大丈夫。タツ、追いかけるなんて考えちゃダメだよ。誓ったでしょ?」



―――死を分かつとも共にって。



「………はい。」



おらの目も涙で霞んできた。
握った手だけが、シノ様とおらがいることを伝えてくる。



「…約束、しようか?」

「え?」

「私が死んで、しばらく後に貴方が死んだら、迎えに行くよ。…必ず。」

「……はい。」



約束、と指切りすると、シノ様は辛そうに息を吐いた。



「…なんか、疲れちゃった。少し、眠るね…。桜、咲いたら起こし、て…」



シノ様はそう言って目を静かに閉じた。



「……はい。シノ様、おらからも約束…」



―――いつか二人で桜を見にいきましょう。



静かになった部屋には、一人分の呼吸と、一人分の温もりが残っているだけだった。



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あきゅろす。
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