音楽ノ噺
3
「ただいま〜。」
「お帰り。」
家に帰ると、希紫ニィが出かける準備をしていた。
「今日、仕事?」
「今日、仕事。あ〜あ、折角リィが帰ってきたのに、ゆっくりもしてらんないのか…」
「いいじゃん、帰ってくんだからさ。頑張ってね?」
「あぁ…。じゃ、頑張ったらご褒美ちょうだい?」
「変なのじゃなきゃな。」
「ちっ…言ってきます。」
「いってらっさい。」
希紫ニィを見送ると、オレは早速練習し始めた。
高い音に、低い音、聴かせる部分と、盛り上げる部分、それからシャウトと、囁き。
バリエーションは、広く、音楽変化にどんどん吸い込まれる。
「うぁ〜…、流石『No Name』。センスいいな。」
ここまできてなんだけど、未だ本当に自分が『No Name』のメンバーになったことが信じられない。
「頑張らなきゃな。」
漆祈はもちろん、メンバーのみんながオレを信頼してる。
オレはそれに応えたい。
応えて、同じ場に立つことを、他の人にも認めてもらいたい。
「よし!頑張るぞ!」
意気込んだオレは、アイラさん時代のは完璧覚え、残る2曲に取り組んだ。
――――――――――――――
〜漆祈Side〜
あの後別れたオレたちだが、実はオレのマンションに集まっている。
「漆祈は意地悪だな〜。」
「オレはまだ、本当にあいつを認めたわけじゃない。」
「漆祈、せめて希莉クンて呼びなよ。いくらいないからって、僕はやだよ。」
「悪い。」
オレは希莉をまだ認められていない。
たしかに、歌唱力はアイラとは雲泥の差で、凄かったと思う。
だけどそれだけ。
どう凄いのかがはっきりしてこない。
あとは容姿だ。
仮にもビジュアル系として、デビューするのにあの凡庸な顔では納得しないファンも出てくるだろう。
「…ぐだぐだ言ってんじゃねぇよ。」
ガッとローテーブルを蹴る楽。
笑っちゃいるが、若干キレている。
「漆祈よぉ…、キーリの上辺だけで言ってんなら」
―――殺すぜ?
笑みがスッと消え、冷たい目で射抜かれる。
その後すぐ、ルトが集会を強制的に解散させた。
楽は、人を信頼しない。
人に関心を向けない。
あいつの中に誰も入れないから…。
だけど、希莉はいともたやすく入ってしまった。
どういうことだ?
オレはもやもやしたまま、誰もいなくなったソファに寝転んだ。
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