音楽ノ噺
1
オーディションにめでたく合格してから二日後、漆祈さんから集合がかかった。
「えっと…グストにいるって…あ、」
ファミレスのグストに行くと、女の人の視線が集まる席に気づき、ついでにそこに目当ての人たちがいるのに気づいた。
「あ、ヤッホー!こっちこっち!」
「…キルさん。」
苦笑しながらそこへ行くと、好奇の目と、訝しむ目、あからさまに邪魔だ、という目に晒された。
それに気づいた楽さんが、オレを奥へ引きずり込む。
「揃ったな。」
「イェーイ!!パフパフ!」
漆祈さんの言葉で、キルさんが何故かハイテンションになる。
「うるさいよ、キル。他のお客さんに迷惑でしょ?」
「あ、ゴメン。」
ルトさんってお母さんみたい。
「さて、今日はお前の名前決めと、明後日の『箱』でのミニライブについてだ。」
「名前?」
名前なんてテキトーに付ければいいのに…。
「うちではさ、本名より芸名?で呼び合うんだ。希莉クンは、僕らのバンドに一昨日誕生した新しい家族みたいなもの。単にバンドだから繋がってると思いたくないんだよ。」
「へぇ…。何か案外アットホームなバンドなんですね。」
『家族』と言われて、心があったかくなった。
「だから、敬語もなし!『キルさん』じゃなくて、キルって呼べよ?」
「はい!」
嬉しい、嬉しい!
思わずへにゃりと笑うと、思いっきり楽さ…じゃない、楽に抱きしめられた。
「…名前、キーリはどう。」
「『希莉』だから、真ん中伸ばしたのか…。」
「それ、いいんじゃない!」
「キルと兄弟みたいだね。希莉クンはどう?」
…案外、安直なんだね。
でも、まぁ…
「ゴテゴテしたのよりはマシか…。じゃあ、キーリで。」
「よっしゃ!誕生してくれてありがとな、キーリ!」
「どう致しまして…?」
今、この瞬間、オレは本当に『No Name』の一員になれた気がした。
抱き着こうとしたキルが、楽に低い声で、抱きつくんじゃねぇよ、と言ったのをみんなで苦笑した。
あ、キルだけは、すんませんでしたぁ!と青くなってたけど。
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