音楽ノ噺
3
歌い終わると、静寂が空気を支配した。
歌に熱中していたオレが、メンバーに目を戻すと、漆祈さんの持っていたペンが折れ、キルさんは唖然とし、綺麗系のルトさんは目を見張り、寝ていた可愛カッコイイ系の楽さんは、ニコニコ笑っていた。
ナニゴト!?
「あ、あの…?」
「桜井希莉、だったな。」
「はい。」
かたりとペンを置いて、漆祈さんが目を閉じ、椅子にもたれると息を吐いた。
そして、決めたかのように目を開いて、オレを見据えた。
「…いい声だ。啼かせたくなるな。…合格だ。」
「はい…。はい?」
普通に返事したけど、なんか凄いこと言われた気が…。
「合格。うちの歌姫として、活躍してほしい。」
「い、いいんですか?」
「構わないよ!寧ろ、その声に合わせて弾きたい!」
キルさんがガタンッと立ち上がって言った。
嬉しいような、恥ずかしいような気がして思わず、へにゃりと笑うと、急に楽さんが、席を立って近づいてきた。
「ら、楽さん?」
「…イイ声で啼けよ。」
「ひゃあっ!」
抱きしめられたと思ったら、意外と低く甘い声で耳に囁かれた。
息が当たり、思わず変な声を出してしまうと、離れた楽さんはニコニコと可愛いらしく笑っていた。
「楽、戻れ。悪いな。そいつ、ニコニコ笑ってっけど、思ってること必ずしも一致してるわけじゃないんだ。」
「え?」
「つ〜ま〜り〜、こういうこと!」
そう言ってキルさんが、楽クンのブログ朗読始まるよ!と携帯を取り出した瞬間…
「…沈めんぞ。」
ものっそい低い声で、超ニコニコした顔のまま楽さんは、言い放った。
「じ、冗談だって〜。」
…なるほど。
顔と言葉が一致してない。
「ちなみに、前、一度本気でやって、携帯逆パカされたんだよ。」
「逆パカ!?」
「あぁ。笑顔のまんまでな。」
ルトさんが付けたし、漆祈さんが当時を思い出すような顔で言った。
楽さん恐るべし…。
その後、楽さんに気に入られたらしいオレは、オーディションの最後の一人が終わるまで、ずっと引っ付かれていた。
案の定、『あの平凡なに?』という目がグサグサ刺さった。
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