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音楽ノ噺


初めてライブに行った時、喉の奥がむずむずした。
奏でる彼らはかっこよくて、でも、オレは歓声をあげるよりも、自分自身が歌い出したい衝動に駆られた。

歌い、走り、叫び…。

オレも、歌いたいと思った。

けれど、容姿は平凡で身長も低い。
華奢な体で、高2になっても中学生と間違えられる。
憧れのV系バンドに入れる容姿ではなかった。

逆にオレの兄は、いろんな芸能プロダクションから声がかかるほどで、つい最近、V系バンドを組み、ボーカルを担当することになった。
今は、インディーズだけど、すぐにメジャーデビューするだろう。

オレのチャンスは…ことごとくなくなった。

…かのように思えたが、どういう訳か、チャンスが巡ってきた。



「『No Name』のボーカルオーディション?」

「あぁ。リィも歌いたいんだろう?メンバーに聞いてみたら、丁度空きが出たらしい。」



タバコをふかすお兄様、希紫ニィは、そう言った。



「…ムリ。」

「は?」

「いや、だって…『No Name』って、あの『No Name』でしょ?」

「他にないだろ。」

「…希紫ニィ、オレを笑い者にするつもりか?」
「オレの可愛いリィを笑う奴がいるなら殺してやる。」

「冗談に聞こえねぇよ…。」

「冗談じゃないからな。」



兄は極度のブラコンです。
いつかうっかり、取り返しのつかない世界にいってしまわないか、心配になります。
犯罪的な意味で…。



「それに前ボーカルの、アイラさん…敵うわけないっす。」

「…裏情報だけどな、」

「ん?」

「アイラって、あんま歌上手くないんだ。」

「嘘だ〜。」

「ライブとか、上手く録れたやつを口パクで歌ってるだけなんだと。そんで、実力主義の漆祈がブチ切れて、ボーカルから落としたらしい。」



唖然としてしまった。
それが本当なら、すごいゴシップニュースだ。



「容姿重視で、うっかり我が儘姫なんかを入れたから、今度は実力だけで選ぶってわけ。」

「マジか…。」



知られざる裏情報。
ホント、びっくりだ。



「っていうわけで、オーディション申し込んどいたから。」

「……え?今なんか、サラっと爆弾発言しなかった?」

「とりあえず、明日オーディションあるから、受けて来いよ。逃げたら一生抱き枕に」

「行きます!喜んで行ってきます!!」
「よし…。」



希紫ニィの一生抱き枕とか…。
絶対なりたくない。
安眠妨害されまくりだから。

そんなわけで、オーディション受けることになりました。



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