音楽ノ噺
1
初めてライブに行った時、喉の奥がむずむずした。
奏でる彼らはかっこよくて、でも、オレは歓声をあげるよりも、自分自身が歌い出したい衝動に駆られた。
歌い、走り、叫び…。
オレも、歌いたいと思った。
けれど、容姿は平凡で身長も低い。
華奢な体で、高2になっても中学生と間違えられる。
憧れのV系バンドに入れる容姿ではなかった。
逆にオレの兄は、いろんな芸能プロダクションから声がかかるほどで、つい最近、V系バンドを組み、ボーカルを担当することになった。
今は、インディーズだけど、すぐにメジャーデビューするだろう。
オレのチャンスは…ことごとくなくなった。
…かのように思えたが、どういう訳か、チャンスが巡ってきた。
「『No Name』のボーカルオーディション?」
「あぁ。リィも歌いたいんだろう?メンバーに聞いてみたら、丁度空きが出たらしい。」
タバコをふかすお兄様、希紫ニィは、そう言った。
「…ムリ。」
「は?」
「いや、だって…『No Name』って、あの『No Name』でしょ?」
「他にないだろ。」
「…希紫ニィ、オレを笑い者にするつもりか?」
「オレの可愛いリィを笑う奴がいるなら殺してやる。」
「冗談に聞こえねぇよ…。」
「冗談じゃないからな。」
兄は極度のブラコンです。
いつかうっかり、取り返しのつかない世界にいってしまわないか、心配になります。
犯罪的な意味で…。
「それに前ボーカルの、アイラさん…敵うわけないっす。」
「…裏情報だけどな、」
「ん?」
「アイラって、あんま歌上手くないんだ。」
「嘘だ〜。」
「ライブとか、上手く録れたやつを口パクで歌ってるだけなんだと。そんで、実力主義の漆祈がブチ切れて、ボーカルから落としたらしい。」
唖然としてしまった。
それが本当なら、すごいゴシップニュースだ。
「容姿重視で、うっかり我が儘姫なんかを入れたから、今度は実力だけで選ぶってわけ。」
「マジか…。」
知られざる裏情報。
ホント、びっくりだ。
「っていうわけで、オーディション申し込んどいたから。」
「……え?今なんか、サラっと爆弾発言しなかった?」
「とりあえず、明日オーディションあるから、受けて来いよ。逃げたら一生抱き枕に」
「行きます!喜んで行ってきます!!」
「よし…。」
希紫ニィの一生抱き枕とか…。
絶対なりたくない。
安眠妨害されまくりだから。
そんなわけで、オーディション受けることになりました。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!